2011年3月22日火曜日

第7回  山小屋の仕事(2)(厨房編)


■ 厨房の仕事ってたいへん?

 山小屋での仕事で、一番手間ひまかかるのは、やはり、食事の準備になるでしょうか。なにせ、数十から、多い時は、小屋の規模によっては数百人分の食事を用意しないといけないのですから、食器、プレートを並べて盛り付けするだけでも大変なことです。たとえば高天ヶ原山荘のような小さな小屋だと、食堂の定員は24名、ここで、100人が食事をとるとなると、最低、5回は入れ替えないといけません。伝えた食事の時間通りにこない人やら、暗くなってから小屋に到着する人、温泉に行ったきりもどってこない人w・・・等、予定通りにはいかないですから、実際は5回+αの入れ替えとなります。食器の数は50セットしかないので、下げたものを再度洗って、さらに盛り付けて、また配膳して・・っと、これの繰り返しになります。さらに、お弁当も作らなくては・・っと、最盛期の厨房は、実に大忙しです。気がつくと、もう、消灯時間・・・。そして、暗い中、厨房で夕食なんてことも・・・。そんなことも、小さな小屋では、ワンシーズンに何回かあります。逆に、大きな小屋だと、数百人分の食事を用意しないといけないのですけど、その分バイトの数も多いですし、効率よく分業体制ができてますので、そこまで遅くなることはないのです。どちらがいいかは、一概にはいえないのですけどね。

 食事の内容は、各小屋の厨房の担当者が考えて、毎年ちょっとずつ手を加えていくので、担当者が変わると内容もがらっと変わったりするのですが、その小屋の長年の定番メニューってものはあります。たとえば、北アルプスの双六小屋や黒部五郎は昔から夕食のメインは天ぷらで有名ですし、南アルプスの鳳凰小屋のおかわり自由のカレーライスも、ずっと定番です。ここ6年ほど、通っている、高天原山荘も、昔から夕食は、天ぷらが名物、だったのですが・・・5年前に小屋番さんがかわり、今はチーズハムカツがメイン。私は、いつも高天では揚げ物担当です。天ぷらや揚げ物は目が離せないので、お客さんの多いときは、ず~~と、天ぷら鍋の前に張り付いています(笑)、一昨年は厨房の建て替えで、臨時の小さな厨房での作業だったので、大変でした。その厨房も、昨年ピッカピカに新しく、大きくなって、最高の作業環境になっています。双六グループの小屋はどこも厨房が広くて作業しやすかったなあ。

 小屋の厨房での仕事は、たいてい、料理品目ごとの担当制になることが多いです。たとえば、ご飯とみそ汁は長期バイトのK君、天ぷらはJ君専任、煮物は女性のNさん、といったように、各自の仕事を割り振られるか、得手不得手で自然と分業になりますから、それをこなしつつ、大変な人がいれば、手伝ってあげつつ、手が空いた人から、盛り付け、配膳、お弁当つくり、洗い場にまわるといった感じです。メニューは普通、2種類考えてあり、一日おきに変える小屋もありますし、連泊のお客さんがいる時だけ、別メニューにする場合もあります。さすがに山小屋に三連泊する人はめったにいないので、2パターン用意すれば、たいていはそれでなんとかなるのです。たとえば、ことしの私は高天ヶ原山荘の厨房で何をつくっていたかというと、キャベツの千切り/チーズハムカツレツ/菜の花のおひたし/アンチョビのパスタです。それと連泊のお客様にだす天ぷらも揚げていました。でも、料理は楽しいので、苦にはならないかな。


 
■ アルバイトは何を食べるの?


 従食っていう言葉をきいたことありますか? 従業員の食事のことを、山小屋では、従食とよびます。いわゆる、まかないというやつです。お客さんに出す料理は、遅くなってから小屋に到着する登山客もいるので、少し多めに用意するので、普通は余りがでますので、基本的にはこれをいただくことになります。でも、さすがに、毎日同じものでは飽きてしまいます・・・なので、日替わりで担当を決めたりして交代で、何か1~2品付け加えたり、常連のお客様や遊びにきた元アルバイトの方々がおみやげに持ってきてくれたものをいただいたりという感じです。たとえば、登山口に近い、太郎平小屋とかですと、富山から登って来る人が多いですから、豊富な海の幸(昆布〆とかイカ墨とか・・)を差し入れに持ってきてくださる方々がたくさん登ってきます。まだ、お客さんの少ない時期などは、食堂でお客さんと、同じ時間に食事になったりしますが、従業員の食事のほうが、ずっと豪華だったりすることもたまにあります(笑)。まあ、お客さんの前で、お客さんより豪華なものを食べてはダメ!っという小屋番さんもいるし、たしかにちょっと気まずいのですが。ここ数年、高天ヶ原山荘は工事続きで、常に職人さんが、多い時は10人近くいたので、そちらの食事も用意しなくてはいけないので、ちょっと大変でした。その工事も一昨年に完了し、綺麗な厨房と、バイオトイレのおかげで大変快適な小屋に生まれ変わりました。
 
 そんなわけで、必ず従食用に、一品何か作ってくれない?っていわれると思いますから、時間がかからず、どの小屋にもある食材だけで、ささっと料理できるものをを2ー3種類練習しておくことを、お薦めします。食材は、小屋によってあるものがまちまちなので難しいのですが、大抵のものはあります。ただ、発電機を使わない小屋ですと、冷蔵庫がないですから、肉はハムやベーコンくらいしかなかったりしますので、限られた食材で、素早く、美味しく工夫して料理できる人が喜ばれます。あ、あと、お菓子(ケーキとかクッキーとか)やパンとか作れたりすると、ポイント高いです~。どの小屋にもケーキミックスくらいは置いてあるはず。ちなみに、下の写真は高天が原山荘で前日の夕食で余ったチーズハムカツを利用して作ったカツ丼です。こんなんだと、ネギと出汁つゆ、とき卵で、10分でできちゃいます。簡単でおいしいんです。

■ 山小屋のお風呂について


 最後に山小屋のお風呂について、話しておきましょう。高天ヶ原山荘には、小屋から歩いて15分くらいのところに、天然温泉の露天風呂があって、アルバイトも毎日入れますが、これはありえないくらい恵まれた例です。普通、どこの山小屋にも従業員用のお風呂はありますが、たいていは、厨房の裏手とか、または小屋の裏に別棟になっていたりします。ユニットバスをヘリコプターで上げて使っていたり、シャワーだけだったり、薬師沢小屋などは、以前は、五右衛門風呂を薪で沸かせていました。そこらへんは、小屋ごとに様々です。しかし、水を天水(雨水)だけで、やりくりしている稜線の小屋などは、その貴重な天水を沸かして、オケに入れて、タオルで、体を拭くだけっていう所もあるので、そこらへんが気になる人は事前にチェックしておいたほうがいいかもしれません。ちなみに私は、お風呂なしの小屋で働いたことはないのですが・・・結構きついかもw 普通は、一週間に2-3回程度、お風呂の日があって、順番に手のあいた人から入っていきます。高山は基本的に乾燥しているし、涼しいので、汗もさほどかかないのですが、さすがに3日もすると頭が痒くて我慢できなくなってきます(笑)。石鹸やシャンプーは小屋にありますので、持って行かなくても大丈夫ですよ。

 山小屋での生活は、他人との共同生活ですし、常にお客さんの視線もありますから、特に神経質な人でなくとも、気が休まらない部分もあるかもしれません。風呂は、そんな中一人で、ほっと一息つける貴重な時間でもあります。下の写真は高天ヶ原の露天風呂。源泉と、川の水を混ぜてホースでひっぱってきてるんですけど、その混ぜかげんで温泉の温度を調整するのも大切な仕事のひとつなんです。なにせ皆さん、このお風呂が目当てでやってくるのですから。

2011年3月2日水曜日

第6回 閑話休題(今後について想うこと)

 こんにちは!はる@です。今回は、具体的な仕事の内容からは一旦はなれて、諸々の話をしましょう。そういえば、以前、mixiで、友録申請が来ていて、誰かと思ったら、前に太郎平小屋の受付で一緒に働いていた、当時はまだ慶応大学のSFCの学生さんだった、タイラ君からのものでした。なんでも、その翌年は五色ケ原の山小屋で働いていたそうで、無事、就職も決まったとの報告。リゾート関係の有名な会社への就職のようなので、面接の時にも、小屋での経験は役立ったんじゃないかな。彼も、山小屋のアルバイトがきっかけで、山好きになった一人です。こうして、色々な年代や土地の人と繋がりができていくのも、山小屋アルバイトの面白いところかもしれません。まあ、それだけ、山は魅力があるってことなんでしょうね。
■今後の個人的山小屋生活
 現在(2011年3月)、私もこの夏はどこの小屋にお世話になろうかと思案中なのですが。これまで、あちこちの山小屋で働いてきて、色々な小屋を見られて楽しかったし、比べて見ることによって、初めて、それぞれの小屋の良さがわかることも多いのですが、しかし、決していつまでも、あちこちふらふらとしていていいとも言えず、そろそろ安住の地を探す時期かなーとも思っています。どこに落ち着くにしても、オーナーや小屋番さんと気が合うというのが大前提でしょうが、人、山、小屋の居心地、仕事環境、写真の被写体として魅力、沢登や釣りなどの休憩時間のアクティビティと、選択のための要素はたくさんありますが、全てを兼ね備えた所っていうのは、なかなかありません。
*現在(2015年1月)、4年前には↑のように書いてますがw ここのところすっかり高天ヶ原山荘にお世話になっております。もう他にいくこともなさそう・・・
 もともと、登山は30代半ばにもなってから友人に誘われて始めたのですが、実は、一度やめかけた時期もありました。一通り有名どころの山に登ってしまって、ちょっと飽きてしまった頃です。その頃、出会ったのが山小屋での生活と趣味としての風景写真でした。ちょうどデジタル一眼レフが一般の人にも手が届く値段になってきた頃ですかね。なんというか、登山者として山を外から眺めているのと、山小屋の従業員としてそこで生活しながら、内側から眺めているのは結構大きな違いがあり、わくわくしながら、この11年間を過ごしてきましたが、この先、さらに充実させるためには、どうすればいいのか、そして、ここからの経験から自分は何を表現出来るんだろうと、思案中でもあります。山登りの形態としては、沢登りがメインになっていくと思いますが、やはりこれも、谷という、内部から山を見ることになり、登山道を歩くだけでは見えてこない、新たな発見があると思うからです。
 *↑のようなこと書いてますがw 最近は建築よりもランドスケープデザインの仕事をメインにするようになりました。これも、自然のなかで暮らし、風景ばかり撮っていたからなのかもしれません。
 上の写真は、春の鳳凰小屋で、倉庫整理をしていてでてきたリカールの一本。何十本もあるのだけれど、様々な山の幸を焼酎に浸けこんであるんです。これは、1984年とあるから、もう35年物。オーナーもあまりお酒を飲まなくなってしまったので、僕らがせっせとのまないと(笑)。どこかにカウンターでもしつらえて、山のお酒のショットバーでもやろうかと冗談交じりに話してたけど、やったらほんとうに売れそうだ。こんな得体のしれない酒瓶がずらーっと並んだバーが森の中にあったら、みなさんなら、一杯いくらくらいなら、飲んでみたいと思いますか?しかし、シャクナゲを漬けたお酒って、どんな味なんだろうか。