2011年12月29日木曜日

第18回 黒部五郎の思い出 その5




 写真は、黒部五郎の男性従業員部屋。昔の建物が一部残っていて、そこが冬期小屋になっているのだけれど、シーズン中はここが倉庫兼、従業員の寝床になる。ドアを開ければ、目の前に黒部五郎岳。天気の良い日に扉を開けて風を感じながら昼寝するのが最高に気持ちいい。そういえば、どの小屋にいっても、私の寝付きが異常に早いので関心される、というか、あきれられる。普段、東京では普通に寝付けなかったりするのだけれど、夏に山小屋で生活しているときは、布団に入ってから、眠りにつくまで、3分とかからない、多分1分くらいな感じなのである。食事も下界の三倍くらいは食べるようになるし、実に健康的な毎日である。


 バタバタとしているうちに、年の瀬となってしまいました。年明けにこのサイトのデザインもリニューアルされ、また2012年も一年間このコラムを担当することになりました。とりあえず今年の最終回ということで、ご挨拶だけ。よい年末年始をお迎えください。また、年明けにお会いしましょう。

2011年11月30日水曜日

第17回 黒部五郎の思い出 その4



■空中庭園

 薬師沢小屋のように、黒部川沿に建つ小屋や、縦走路の途中にぽつりと佇む小屋もあるが、たいていの山小屋は、山とセットになっていることが多い。山頂小屋はその際たるもので、朝・夕焼けの美しさ、連なる山々の眺望が魅力的である。山頂でなくとも、例えば、太郎平小屋は薬師岳の眺望が素晴らしいし、高天原山荘は目前に水晶岳がド迫力で鎮座している。

 一方、黒部五郎小舎からは、雲ノ平方面に視界は開けているものの、黒部五郎岳そのものの全容は見ることができないし、もともとこちらは側はカール側なので、山のボリュームとしては今ひとつ弱いのである。山容ということであれば、太郎平小屋から、あるいは薬師見平から眺めたほうが、山としての形がいいように思う。

 しかし、それにもかかわらず、この小屋で二回目の夏を過ごすことにしたのは、その圏谷(カール)の美しさ故である。涸沢や南アルプスの仙丈ケ岳のカールも見事だし、薬師岳のカールも天然記念物に指定されていてこれまた美しいのだが、個人的にはやはり、黒部五郎岳のカールが別格で、ナンバーワンである。

 小屋から、歩くこと20分。最後の急坂を登り切ると、視界がぽっかりと開ける。岩壁にぐるりと囲まれた、その平坦な空間には、草花が咲き乱れ、そこに、巨大な岩がまさに、ごーろごろとちらばめられている。そして、その真中には、夏でも、雪渓からの雪解け水が小川となって流れていて、この水は一年中枯れることがない。日本で、最高所にある清流であろう。

 なんとも、荘厳で、神聖な空間であり、まさに空中にポッカリと浮かんだ美しい彫刻庭園である。香川県の牟礼町にあるイサム・ノグチ庭園美術館は大好きな空間で、何度も訪れているけれど、やはり、所詮は人の思考と肉体で作られたものであり、この自然のスケール、造形美にはかなわないなーっと思う。

 とにかく、この空間でぼーっとしたい!というのが何度もここを訪れている理由である。以前はこのカールにテント場があったそうで、ここで、寝袋にくるまって、星を眺めながら眠れたら最高だろうなっと思う。しかし、考えることはみな一緖なのか、今でも違法テントの設営が後をたたない(苦笑)来年はぜひ、小屋〆後の紅葉の写真を撮りにいこうと計画している。

2011年10月10日月曜日

第16回 黒部五郎の思い出 その3



■黒部五郎小舎

 黒部五郎小舎は、双六小屋と太郎平小屋の長い尾根道の途中の谷間にぽつりとたたずんでいる。この間、昭文社の山と高原の地図のコースタイムで、約十時間である、縦走の重い荷物を背負って、尾根道とはいえアップダウンの激しいこの登山道に、登山者の安全のためにも、位置的になくてはならない小屋である。登山口からもやはり、十時間前後かかるので、体調を壊して、または、怪我をして歩けなくなり、富山県警の救助ヘリで、この小屋から搬送される方も当然のように毎年数人でてきます。無理なツアー登山で、ダウンしてしまう高齢の方もいらっしゃって、山くらい、のんびり歩こうよと言いたくなる。




■山小屋で出会った人達、その後

 今回、話しは黒部のことではないのだが・・・。これまでに、夏に山小屋でご一緒させていただいた方々はたくさんいるのだけれど、この秋は、そのうち二人を雑誌上で見た、あるいは見ることになる。

 「見た」という雑誌の一つは、すでに既刊の「フィールドライフ」というエイ出版が登山用品店などで、無料で配っているアウトドア系の季刊誌である。先日、高田馬場のカモシカスポーツに買い物に行った際に、ご自由にお持ちくださいと置かれていた。はじめて持ち帰ってパラパラとめくっていたところ、黒部源流部のフライフィッシングの紀行文が載っていた。へ~~誰か知っている人でもでているかなと、記事を見てみると、旅の主は二名。一人はアウトドア系のライターさんで、もう一人は・・・サングラスをかけた写真だったので、パッと見わからなかったのだけど、その松山氏なる人物の経歴をみて、ああ!っと思い出した。

 そう、3年前の夏、僕が太郎平小屋で、一夏、受付に座っていたときに、薬師沢小屋にシーズン初めからバイトで入っていた松山君であった。その夏、一日休暇で、薬師沢小屋に遊びに行った時に、雨の中、午後の釣りに付き合ってもらった、釣りキチである(笑)。もともと、大学のアメフト部のクオーターバックとして活躍しながら、研究室の博士課程で、文化人類学のフィールドワークを続けていたという、文武両道な人物なのだが、怪我で大好きなアメフトができなくなり、新たに、得た世界がフライフィッシングだったらしい、その夜は、熱い思いを一生懸命に語ってくれた。もう、フライを初めて15年位になっていた僕は、自分がフライを始めたばかりの頃、いや、それ以上の思いで、この釣りに夢中になっているなー、彼、と、その時に感じていた。

 そして、紀行文を読み進んでみると、現在はティムコという、釣具のメーカーに勤務しているらしい。僕も昔からフライのフックはティムコ(TIEMCO)製を使っている。しかし、ということは、彼は、フライフィッシングの世界で生きて行く決心をしたってことなんだな。ふむふむ、それも素晴らしい人生だしね また、黒部で彼と一緖に釣ることもあるだろう。

■山と渓谷デビュー

 で、「これから見る」のほうは誰かというと、毎年GWに小屋開けの手伝いに行く、南アルプスの鳳凰小屋。僕はGWだけしか行かないんだけど、この4年間、春から秋にかけて小屋番としてフルシーズン働いているのが、宇佐美君。初めて会ったのは彼がGWにも来るようになった、3年前だっけかな。神奈川出身で、高校では陸上選手として活躍。東京の写真専門学校をでて、スタジオで修行後、なぜか鳳凰小屋に迷いこんできた。しかし、この四年間で小屋の仕事をしながら、写真を撮りため、ついに、雑誌「山と渓谷」の11月号(10/15発売)で、写真家として、グラビアデビューするそうです、僕も書店で見れるのを楽しみにしている。僕自身、この連休も鳳凰行く予定が、ちと仕事でお流れになったので・・紅葉は終わってるっぽいけど、今週末にワインでも持って、お祝い兼ねて遊びに行ってくるかな。

 偶然、山の世界にふらふらっと、やって来た彼らも、そこで、何かを感じ、考え、やがては、それぞれの世界へ。しかし、旅立っていっても、彼らにとって、山小屋は第二の故郷になるのだろう。自然とは、山とは、なんという豊かさと、人の人生さえも変えてしまう魔力を持ちあわせているのかと思う。

 

2011年10月3日月曜日

第15回 黒部五郎の思い出 その2


 

一昨年に続き、今年も五郎では、コバイケイソウがよく咲いた。高天原もコバイケイソウは結構多いけど、五郎程群れをなしてこの花が咲く場所を他に知らない。毎年、7月末になると、あれ、今年も咲いてきたな、と思っていて、でも、小屋の仕事でバタバタしているうちに、気がつくと満開っていうパターン。「うわ!いつの間に!」っていう感じで小屋の周り一面が、お花畑になる。

 でも、この花が咲くと、花の大きさや形もあってか、僕には湿地帯一面に、無数の十字架が突如、出現したような錯覚を覚えてしまう。今年は、東北の地震のこともあり、被災地で亡くなられた方たちが、旅立ちの前に、今しばらく、この楽園のような土地で、この世を楽しんでいるような、不謹慎だと思いつつも、そんなことを思ってしまった。

 カールの右壁の群生も見事です。そちらは、8月初めくらいが見頃かな。

2011年9月30日金曜日

第14回 黒部五郎の思い出 その1



こんにちは、お久しぶりです、はる@です。怪我していた左足の踵もやっと完治しまして、来週末は紅葉の鳳凰小屋~甲斐駒ケ岳/仙丈ヶ岳を縦走してきます。ご報告は月末くらいになりますが、それまで、今年の夏の黒部五郎小舎での写真でもぼちぼちアップしてみようと思っています。

 今日の写真は、黒部五郎小舎の厨房。ちょっと暗い(写真はだいぶ明るく修正してあります)のですけど、広くて使いやすい厨房です。今年はどんよりしたお天気が多く、昼間でもヘッドランプを灯しながら作業してたりしてました。ところ狭しと鍋やらバットやら・・・ここの小屋は今まで働いた中でも特に手作りの料理にこだわっているいるので、ごぼうの天ぷらのささがきをするにも、数時間かかったり、煮物も夕食用、朝食用、お弁当用にそれぞれ数種類あったりと、厨房の前室にはそれらの鍋がところ狭しと並べられています。

 なにせ、厨房で過ごす時間が山小屋では一番長いので、まあ、くだらない話題で盛り上がりつつ、ここで、一日の大半を過ごします。なかなか小屋の厨房の中って、一般の人は見る機会がないとおもいますが、こんな感じです(笑)

 カメラはニコンのD700で、レンズは16-35mm VRと60mm Macroを使っています。

2011年9月16日金曜日

第13回 今年の北アルプス

 こんにちは、お久しぶりのはる@です。大変ご無沙汰してしまってすいません。先月末には黒部五郎から戻ってきていたのですが、仕事が思いっきりテンパってしまっていて、バタバタしている間に、三週間も経ってしまいました。やっと少し落ち着いてきたので、そろそろ、コラムを再開しようと思います。そんななか、この週末からの連休、明日から八ヶ岳、来週末は北アルプスの太郎平小屋に挨拶がてら、薬師沢小屋ー高天原山荘ー双六小屋と廻ってくる予定で、テントも新調して準備していたのに・・

 実は、一昨日、自転車で落車して、左足を思いっきり捻挫してしまいました・・・現在、家や自宅の仕事場をケンケンとハイハイで這いずりまわっている悲惨な状態に。。。さすがに今日はタクシー呼んで病院に行ってくるつもりですが、この痛みだと、二週間は、松葉杖のお世話になりそうです(涙)。昨年も、一昨年もこの時期は足の怪我で歩けてなくって・・・今年もか。といっても台風接近で、お天気も今ひとつみたいですけど。意外と9月はお天気がはっきりしないんですよね。せめて、10月の頭の甲斐駒ケ岳&鳳凰小屋の紅葉までに歩けるようになってくれればいいのですが。

 とまあ、個人的な話はともかく、今年の夏は、二年ぶりの黒部五郎小舎だったのですが、前回は、男性5人に女性2人という構成だったのが、昨年あたりから、意図してかどうかは定かではないですが、女性を多めにとるようになったらしく、男性4人に女性4人と半々の構成でした。笑い声の絶えない、楽しい仕事環境でした。支配人さんはじめ、この小屋はバイト常連の方も多く、最初からリラックスムードで仕事。あっという間の40日間でした。

■ 今年の北アルプスのお天気は今一

 しかし、今年の北アルプスは、雨・雨・雨・・・でした。7月13日にまずは麓のわさび平小屋に一泊、次の日に双六小屋に一泊(途中、鏡平で休憩)。三日目に黒部五郎小舎に到着といつもの行程。この間、きつい上り&猛暑でみんなばてばてでした。それから一週間位はお天気もよく、お客さんもまだ少なめなので、男性バイト衆で、弁当もって、一日草刈り・・とかしてたのですが、23日に他のバイトの助成二人がやって来た頃から、だんだんと毎日、雨模様に。結局、最後の下山日の8月23日も大雨の中、双六小屋からの下山となってしまいました。
 ただ、お天気もそれほど大きく崩れることはなく、なぜか、夜は星空が覗き、朝方はまだ晴れているのですが、朝も八時を回る頃には岐阜県側から、ガスがもくもくと・・そして十時頃には雨がパラパラ、そして、しとしとっていう毎日でした。ほんとにすかっと一日晴れたのは、ほんの数日。一応、40日滞在。お休みは、短期バイト4人が火曜日~金曜日に週に一回ずつ交代でとるかたちで、計4日間いただいたんですが、黒部川本流に岩魚釣りに行ったときこそ一日晴れていたものの、あとは、カッパを着ての周辺散策しかできませんでした。そうそう、一昨年は、鉄砲水でもあったのか、ゴロー沢は荒れ放題って感じだったのが、だいぶ回復してきていて、結構上流部でも、魚影が走っていました。いつもどおり、五匹釣って竿をたたんで、沢をカールまでつめて、登山道で小屋に戻りました。

 五郎はもちろんですが、双六小屋でも、みなさんには大変お世話になりました。また素晴らしい夏を過ごすことができました!


■ お客さんは平年並?

 じゃ、お客さんが少なくて、暇だったのかというと、意外とそうでもなく、爆発的な人数には一日もならなかったものの、毎日、平均して、そこそこの人数きたので、トータルでは例年とかわらないくらいでしょう。忙しい時期も、富山のグリーンパトロールの人達がちょうど滞在して手伝ってくれたりして、それほどバタバタせずに済みました。でも、ここ3-4年の傾向なんですけど、小屋泊まりのお客さんの数は横ばいか少し減少傾向なんですけど、テント場は大盛況なんですよね。まあ、若い人は前からテントだけど、やはりブームなのか、だいぶ数が増えて来ています。シーズンのうち数日は、小屋よりもテント泊の人のほうが多い日があるくらいです。そういえば、ここ10年くらいで、テントやザックも軽いものがいっぱいでてきて、クッカーもチタンですし、テント泊でも、大荷物背負ってという感じでもないですからね。

 そうそう、山でのバイトは小屋での仕事が一般的ですけど、先程話しに出た、グリーンパトロール(通称:グリパト)というバイトもあって、これは、富山県の営林署が管轄している仕事で、一ヶ月間、ある地域を、小屋に泊めてもらいながら巡回して、自然保護の観点から、登山者にアドバイスしたり、時には注意したりする仕事です。制服があって、赤いシャツにモンベルの赤いカッパを着ていて、腕には営林署の腕章をしているので、出会えばすぐわかると思います。一箇所に滞在するより、とにかく歩きまわりたい人にはこれもいいバイトかもしれません。ただ、二人一組で廻るので、お互いの相性の問題があり、そこらへん大丈夫な人じゃないときついかもしれません。毎日、朝から晩まで顔を付き合わせているので、やはり、揉め事もあるようです。巡回する地域としては、室堂周辺、後立山、黒部周辺といくつか選択肢があるようです。たしか、乗鞍にいたときも同じような人達がいたので、長野にも同じような制度があるはず。

 さてさて、今日はこれから病院にいかないといけないので、ここまでにしておきます。まだ写真も整理中なので、いくつか写真をピックアップして、黒部五郎での生活についてこれから順次書いていく予定です。うーん、ほんとは来週の高天原再訪記書く予定にしてたんだけど、足がこれでは・・・

2011年7月11日月曜日

第12回 大きな小屋・小さな小屋



   この写真は2010年の高天原山荘の写真。しかも、お客さんは見る機会のない裏側のファザード。裏にあるのは、いわゆる「こえだめ」と焼却炉。いわば山小屋での汚れ仕事の場なので、お客さんは入れないようになっています。一転、正面側はデッキになっていて、お客さんの憩いの場。今回は、この高天原での生活をちょっと振り返ってみようかと思います。

 もともとこの小屋は大東鉱山という会社のタングステンの採掘&精製のための作業小屋だったのですが、50年も前にこんな山奥でタングステンを掘っていたなんってちょっと驚きです。こんな山奥にタングステンがあるなんて、誰が見つけたのやら。もともと太郎平も、金の採掘調査のために開かれたらしいし(結局、金はみつからなかったらしいですが)ので、そういう山師っていわれるような人たちが、北アルプスを歩きまわっていたのかもしれません。どんな人達だったのでしょうかね、非常に興味あります。その頃の黒部源流域にどんな人間が出入りしていたのかは、三俣山荘のオーナーである、伊藤正一さんの、「黒部の山賊」という名著に詳しく書かれています。以前は、三俣グループの小屋でしか手に入らなかったのですが、数年前に山と渓谷社から、出版され、アマゾンでも手に入るようになったので、ぜひ読んでみてください。

  高天原山荘は、厨房と従業員部屋の部分は増築してありますが、ほぼ50年前当時のままで、軽量鉄骨造の建物で、昔の姿のまま、立ち続けています。梁なんかはトラス構造になっているのですが、こういった部材を、まだヘリの無い時代に、大東新道を担いで運んだのでしょうか、トラスは現場で溶接したのですかね。どちらにしろ、大変なことです。50年間ほったらかしで、しかも、豪雪地帯にあるので、基礎も柱も歪み放題、おまけにここら辺は湿地帯で地盤がよくないですからね。その影響で、屋根が波打っているのが写真でもわかると思います。でも、この歪みっぷりが、逆に味となっているのです。お客さんも、「おお・・これは凄い・・噂通りだw・・」と満足して写真を撮って帰っていきます(笑)。改修であまり小奇麗になってしまうのも、逆にちょっと残念な気もします(笑)。

#追伸

*高天ヶ原山荘は2013年までに母屋の改修、厨房/従業員部屋の新築、バイオトイレの新設を終えて、新しく蘇りました。バックヤードにも大きなウッドデッキをつくって、お客さんも洗濯物を乾かしたりできるようになっています。厨房も広く綺麗になり、働く者にとっても、とても快適な小屋になりました。 >

■ 大きな小屋、小さな小屋

   高天ヶ原は、北アルプスの最深部とか、秘湯中の秘湯とか、登山口から最も遠い小屋なんて言われかたをしますけど、けっして、地理的にどん詰まりのような場所に位置しているわけではなく、意外と、交通の要だったりします。高天ヶ原を中心に、三俣山荘の岩苔乗越への道、薬師沢小屋へは、大東新道と雲の平経由の二本の道があるし、読売新道へと駆け上がる、温泉沢の登山道、今は廃道になってしまいましたが、奥黒部ヒュッテまで通っていた、旧高天原新道(今は竜晶池から先はわずかに痕跡があるだけ)もあり。小屋開け後は、これらの登山道整備に追われる日々となります。温泉の整備、脱衣場の組み立てや、岩苔小谷の橋架けもあり、これを小屋番さんと二人でこなさないといけないので、最初の2週間程は大忙しです。2010年は6月末に小屋に入ったのですが、最初のお客さんが来たのは7月の10日過ぎで、単独行の男性一人でした。それまでは、ずっと、昼間は外仕事、当時の小屋番の小池夫妻と三人で夕食後、九時頃まで毎晩晩酌しながら、いろいろな話を聞かせていただきました。今は小池夫妻も山小屋の仕事は引退されて、太郎平小屋の厨房を仕切っていた高橋さんが小屋番をしております。

   その後は、ぽつぽつと、お客さんも増え始めて、一番多かったのは、8月3日で、120人くらいだったかな、外仕事が終わってしまえば、あとはルーチンワーク。起床→朝食準備→清掃→お風呂(もち白濁硫黄系泉質の露天風呂!)→夕食の天ぷら用のあざみ取り→昼飯→売店・受付→夕飯準備→片付け→従業員夕食→翌日の準備→就寝といった繰り返しの毎日です。まあ、バイト同士でローテーションを組んで、山へ行ったりもできますけど、小さな小屋でバイトも少ないので、あまり休暇の融通は利かないかな?大きな小屋だと、チームに分けてローテーションできるので、休憩は比較的取りやすいのだけれど。でも、ここ6年ほど、小さな小屋で働いてみて、自分にはやはりこじんまりした小屋の方が向いてるなーと思います。なんといっても時間がゆっくり流れていますし、お客さんとの垣根が無いので、話もはずみますし、仕事してても楽しいですね。

 赤い屋根の小さな小屋、目の前にはお花一杯の大湿原にぽっかり浮かぶ水晶岳。夏の青い空に入道雲。まだ、雪解け水のような、冷たい清流に遊ぶイワナ達。ああ、夢のような日々(笑)

*大きな小屋には、写真家やら、雑誌、テレビ関係者など、山に関係する様々な人達がやってくるので、ありとあらゆる山に関する情報が集まりますので、それはそれで、楽しかったりするのですけどね。

2011年6月29日水曜日

第11回 山小屋への携行品(遊び道具編)


 今日の写真は、2009年に、黒部五郎小舎にいたときに、黒部川本流で釣った岩魚の写真です。小屋から、黒部川本流までは、特に危ないところもなく、ゴロー沢を下っていって、約一時間程度。ゴロー沢は数年前に鉄砲水があったとかで、流木が多くちょっと荒れた感じでしたけど、本流にぶつかる、ちょっと手前から魚影もちらほら見られました。


 黒部源流部での釣りというと、薬師沢小屋へ泊まって、目の前を流れる本流か、薬師沢でっていうのが、一般的です。フライロッドをザックの脇にさして登って来る釣り人の数はそれほどは多くはないですが、魚はすこしスレ気味ですかね。まあ、それでも、大物がばしばし釣れてしまうのが、黒部源流のすごいところなのですが。



 それに比べると、黒部五郎小舎近辺の黒部川源流部や、高天原山荘の近くを流れる岩苔小谷は、釣り人もまずこないですし、川を独り占めできます。魚影も濃いし、魚もスレていません。天気のいい日に、川の音につつまれながら、清流で過ごす一日は、まさに「日本の夏休み!」という感じで至福の時間です。黒部源流でイワナ釣りっていうと、なんかとても難しい感じがするかもしれませんが、これだけ魚が豊富で釣りやすい川も全国探してもまずないとおもいますので、興味がある方は、ぜひチャレンジしてみるといいですよ。問題は、たどり着ける脚力だけです。ただし、キャッチ&リリースは必ず守ってくださいね。ずっと、フライロッドを持って行っていたのですけど、昨年からよりシンプルにということで、テンカラ竿にしました。


  僕の場合、持っていく毛鉤はアント(蟻)と、ビートル(コガネムシ)、アダムスのパラシュートと、イブニングライズ用のホワイトウルフの4種類だけ。これで、十分釣りになります。サイズは14-16番でOKです。恐らく、これだけの高山で、小屋で働きながらフライフィッシングを楽しめるのは、黒部源流域だけじゃないかな?これも、僕が黒部から離れられない大きな理由の一つです。

 ■ 山小屋に持って行く物(遊び道具編)

  
   山小屋で一夏過ごす場合、たまの休暇や休み時間に何をするかというのは、人様々なのですが最繁期に近づいてきて忙しくなってくると、疲れもたまってきて、結局、休み時間もお昼寝(笑)な、感じになっちゃうのですが、僕はせっかく山に来てるのに、寝て過ごすのはもったいないなあ~っと思ってしまうタイプで、そのために、時間の空いた時用に遊び道具をいくつか持っていっています。それはなにかというと・・・
 

*釣り道具

   前述のように、黒部源流域は、格好の岩魚釣り場なので、フライロッドを持って行きます。フライの竿というのは、通常、持ち運びのために、2-3分割できるように作られているのですが、それでもそれなりの長さになります。薬師沢小屋のように、目の前が川ならそれでもいいのですが、川まで少し歩かないといけないような場合、サブザックに釣り道具一式と、お弁当を入れて、気軽に山道や沢を歩くのに、仕舞寸法の短くなるパックロッドやテンカラ竿が便利です。特にテンカラだと、持ち物はロッドとチペット(ハリス)、フロータント(ドライとジェル)、クリップ、フライボックスくらいでしょうか。ウエアは特に持っていかず、登山用タイツに短パン、足元は小屋においてある沢靴ですませてしまいます。昨年の装備はこんな感じです。

今年の持ち物 釣具編

 *カメラ

  釣りや、登山にはいけない、ちょっとした休憩時間なんかは、もっぱらカメラをぶら下げて散歩をしています。もちろん、山も被写体ですけど、登山道脇の植物やら、よくよく観察すると、様々な被写体が見つかって、撮っていてとても楽しいです。だいたい一夏で5百枚位撮りためておいて、山から降りてから、じっくり整理。以前は山の写真のブログを運営してましたが、今はこちらにアップするくらいになってしまいました。ちょっと撮る写真の方向性も変わってしまったのかなあ。レンズは何本も持っていくわけにもいかないので、広角ズームと、マクロレンズ、望遠ズームの3本が基本。人を撮るのが好きな人は、大きな一眼よりも、コンパクトなタイプで写りに定評があるものを常にポケットにいれておいたほうが、シャッターチャンスを逃さないでいいかと思います。そうそう、頻繁に散歩をしてれば、雷鳥に出会う可能性もアップ。とくに、霧がでているときは、警戒心が薄れるのか、よく登山道に出てきます。しかし、今まではずっと、デジタルの一眼レフを持って行っていたのですが、2013年の高天原では、ニコンのミラーレス機とレンズ二本だけを持っていきました。これだと、機材の重量が一キロ程度で済みます。前述の一眼一式だと3キロ以上になるので、これも重量が3分の一程度で済みます。。でも、画質重視の場合はやはり、一眼をもっていきますね。さらに2014年は、富士フィルムのミラーレス一眼に、撮影機材はこんな感じになってます。


撮影機材一新

*パソコン(iPad)

 前は、ノートパソコン(パナソニックのレッツノートRシリーズ)を持って行っていたのですが、べつに本格的にパソコンで作業しようというわけではなく、お休みだけど、外は雨・・・なんっていう時に音楽を聞いたり、映画を見たり、本や漫画をみたり、日記や思いついた仕事上のアイディアなんかを書き留めたりという使い方です。なので、最近はノートパソコンの代わりにタブレット端末を持っていくようになり、重量もノートパソコンの3分の一以下と軽量化。タブレットは電池が10時間くらいもつので、あまり頻繁に充電をしなくて済むのがいいです。ケースごとジプロックに入れてザックの背中のパッド部分のポケットにいれて持って行ってます。ここだと、金属のフレームが守ってくれるので、変な応力もかからなくて安心です。


  僕の場合はざっとこんな感じです。あと、だいたいどこの小屋にも大きめの本棚があって、バイトや、お客さんが読み終わって置いていった本が結構な冊数置いてあります。普段自分では読まないタイプの本も多く、のんびり読書三昧もまた楽しいものです。あと、変わったところでは、凧もってきて、凧上げしてるやつもいたっけな~。

2011年6月13日月曜日

第10回 山小屋への携行品(生活用品編)


 

このコラムもなんとか今回で10回目。


■ 荷揚げ


   そうそう、南アルプスの鳳凰小屋にはヘリコプターの荷揚げのお手伝いだけに行くこともあります。ヘリは、お天気がいまいちだと、天候回復を待って、待機が続き、フライトがずるずると延びてしまって、なかなか荷物が届かないことが山ではよくあります。とくに昨年は雨ばかりで、一週間もフライトが伸びて、兵糧攻めにあいましたw 霧がかかって視界が悪いと飛べないので、どこの小屋でも、荷揚げの当日はピリピリ緊張ムード、無線でヘリポートと視界の情報をやりとりしなら、ガスが切れた瞬間に一気に物資を運びます。普通は、小屋の近くの開けた場所に荷物を落としてもらい、バイトも総出で小屋の中に運びます。また、すぐ次の便が飛んでくるので、大忙しです。

 そういえば、数年前に、どこかの山域で、荷物をかけるフックがちゃんと締まっていなくて、荷物を間違って落下させたとかで、荷物の脱着の方法が少し変わり、簡単な講習を受けたことがあったっけ。

 下の写真は高天ヶ原山荘でのヘリの荷揚げの様子。緊張して待っていると、パタパタパタっと、ヘリがやってきて、小屋前の小さなデッキに荷物を落していきます。たいてい一発では終わらないので、急いで荷物をほどき小屋の中へ運び込んでいたのですが、2年前から小屋裏に大きなスペースができ、そこに5発くらいは落としていけるので、あとでのんびり運べるため、だいぶ楽になりました。

■ 小屋への携行品について

 前回の続きです、小屋へ持っていく物についてすこし説明をしようと思います。小屋によっては、持ち物チェックリストみたいなのを送ってくるところもありますが、電話で「ヘッドランプと雨具だけは忘れないでくださいねーっ」と、言われるだけのところもあるので、簡単に説明しておきましょう。といっても、着替えや、洗面用品等は、普通の旅行とかわらないので、各自、必要な物を必要な量持っていけばいいと思います。たいていどこの小屋にも、お風呂に入れるのは週2回程度です(高天ヶ原は毎日ですがw)。洗濯はできても、やはり週2-3回くらいですので、アンダーウエア等の基本的な着替えとしては、3セットくらいは必要となります。上に着るものは、2セットでも、かわりばんこに選択すれば、なんとかやりくりできるかな。乾燥室が使えればいいのですが、そうでないと、お天気が悪いとなかなか洗濯物も乾いてくれないので、登山用品の速乾性のある物で揃えていくといいと思います。その他、必需品というと・・・


*ヘッドランプ:

 朝は暗いうちから働きだすので、これなしでは、仕事になりません、必需品です。最近は蓄電池に充電しておいて、厨房だけは朝から、電気照明がつくところも多いですが、倉庫に材料をとりにいったり、やはり手元が暗かったりするので、どうしても必要になります。安物はスイッチがすぐ壊れたりするので、それなりの物を買っておいたほうがいいかと思います。下界でも災害時にも使えますし、登山でも、必ず持っていくものなので、いいものを買っておきましょう。今だと、PETZLかBlackdiamondのものを使ってる人が多いかな。電池は意外とすぐなくなります。僕なんかは、寝る前に本を読んでいて、点けたままにして寝てしまって、朝に電池きれてたり(笑)。一週間に電池ワンセットくらいのつもりで準備していくと安心です。でも、最近は電池は単4のエネループを3セットと充電器を持って行っています。男性はひげそり用の充電池も必要ですね。


*充電器具:

 携帯は小屋での目覚まし時計がわりでもあるので、そのための充電器具も必要となります。私の場合は、目覚ましには、タブレット端末を使っていますので、その充電器と、カメラの電池用の充電器を持っていっています。それと上記のエネループ用充電器。あと、小屋はコンセントの数が少ないうえに、みんなが充電しますので、コンセントの口が三つ付いた延長コードも持って行っています。一人でコンセントを独占してしまっては申し訳ないですからね。他の人にも喜ばれますし。

*エプロン&頭巾:

 厨房に入るときはエプロンと頭巾が必須。保健所の人もチェックに来たりします。たいてい小屋に昔のがたくさん残っていて、すきなの使っていいよと言われますけど、デザイン的にこだわる人は、自分で用意していったほうがいいでしょう。ちなみに、太郎平グループの小屋は、タイアップしているマムートのエプロンで、おそろいです。

*サンダル:

   室内履き用のサンダルも必需品。厨房の床は濡れてますし、山小屋は足元から冷えてきますので、靴下やスリッパでの生活はできません。掃除の時など、畳の部屋では脱いで作業しますから、着脱のしやすいものが使いやすいです。私はアディダスのウオーターモカシンをサンダル代わりに持って行っています。サンダルよりも動きが軽快になるので、脱ぎやすいシューズタイプもお勧めです。つっかけのサンダルでは重い物とか運びにくいですしね。

*防寒具:

   前にも書いたけど、普段はフリースくらいで十分なのですが、たまに冷え込んだ時や、夜に外で宴会をしたり、流れ星を眺めたりする時のために、薄手のダウンもあると快適に過ごせます。ダウンや化繊のベストも、厨房仕事で、料理や洗い物をするときに袖を濡らすこともなく、使い勝手がよいです。夏といっても、標高の高いところは夜は氷点下ちかくまで気温が下がりますので、要注意です。足も冷えるので、ウールのしっかりした靴下がよいですよ。

   といった感じでしょうか。ほかにも気づいたことがあったら、順次書き加える予定です。あれもこれもと思っても、意外と山では使わないもので、一ヶ月なんかあっという間なので、荷物は割りきって、コンパクトにまとめるのが吉です。あ、そうそう衣類に関しては今年の私の持ち物も参考になさってください。)
今年の持ち物 衣類編


   今日の写真は、鳳凰小屋の炬燵で、みんなでまったりとしているところ。このときの荷揚げでは、待機が長かったせいもあって、毎晩飲み過ぎてしまって、荷物運びがきつかった(笑)これは、そろそろ若い人におまかせですね そうそう、この年(2011年)は下山してすぐの、6/6に池袋の豊島公会堂で、山岳映画の上映会があって、鳳凰小屋に関する記録映画もその一つとして上映されました。前年に一年かけて撮っていたらしく、興味深く見させていただきました。オーナーの細田さんもやってきて、舞台挨拶していました。なんでも、山岳映画サロンという、アマチュア映像作家の団体だそうで、毎年、上映会を開いているらしい。公会堂がほぼ一杯になる盛況ぶり、来年も行ってみようとおもう。しかし、製作者が「モデル」と呼んでいたいわゆる女性出演者がこぞってただのおばちゃまだったのにはちょっと苦笑い。まあ、会場を見渡せば、納得な年齢層だったのですけど。

2011年5月14日土曜日

第9回 山小屋への携行品(登山装備編)



今日の写真は、小屋開けのために、GWに鳳凰小屋に小屋入りした翌日の凍りついた窓ガラス。この朝はとても気温が低く、-6度しかありませんでした。御覧のように窓に綺麗な結晶が。鳳凰小屋とはもう長いお付き合いになるのですが、最近は仕事の都合で、小屋開けのお手伝いに行けなくて残念です。今までに5回小屋開けの手伝にいったかな。

  GWだけのバイトを募集している鳳凰小屋みたいなところは少なく、たいていは小屋番さんと、その年の長期のスタッフで小屋開けをします。鳳凰小屋は、一階の談話室に薪をくべる炬燵があって、オーナーの細田さんが、ゴミと一緒に燃やしている薪を常に補充しているので、いつもぽっかぽかの状態。なにせ他に暖房が一切ないので、この炬燵にみんなが暖まりに来ます。そして毎晩大宴会に・・・

 実は、この部屋、オーナーはじめ、スタッフの寝室も兼ねていたりするので、あまり連日盛り上がると、逆にスタッフは疲れがたまって来たりします(笑)でも、こういうスタッフもお客さんも一緒になって話ができる空間って、他の山小屋ではないので、鳳凰小屋の一番の特色になっています。山小屋のお客さんは年齢的にはだいたい60代の方が一番多いのですが、この団塊の世代が山にこれない年齢になってしまうと、だいぶお客さん減ってしまうのかな。

それでも一時期の山ガールブームで若い人もだいぶ増えてきているので、山小屋の客層も、あと数年すると、だいぶ変わるかもしれないですね。テント泊の登山者は、どこも年々増えていて、最近は小屋泊まりのお客と数が逆転することもシーズン中何回かあったりします。かくゆう私も個人での山行きは、テント泊が多いのですが・・・

 ■ 小屋入りの際の装備

  GWの鳳凰小屋のような雪の多い時期に入山する場合は、アイゼン、ピッケルは必携ですし、靴もそれなりの物じゃないといけませんが、夏の短期、中期のバイトなら通常の縦走登山用の装備で十分だと思います。

 *登山靴

  靴は、ゴアテックス・ブーティーの防水性のある一般的な登山靴なら、特に問題ないと思います。靴に関しては、一旦小屋入りしてしまえば、普段は外では長靴で作業&生活することになりますので、小屋でどうこうより、バイトの後、縦走して歩いたりするなら、そのコースに合わせた靴を選べばいいかと思います。最近はトレールランニング用の靴も進化していますから、無理に重い、ごっつい登山靴を選ばなくてもいいかと思います。僕はここ数年はトレールランニング用のミドルカットの靴を使っています。ただソールがちょっと柔らかいぶん、あまり重いザックを背負うと足元がちょっと安定しにくいです。なので、荷物は極力軽くするようにしています。最近は登山客の縦走のスタイルも変わってきて、テント装備でも、足元はトレランシューズっていう若い人も多くなりました。個人的には装備が15キロ前後までなら、トレランシューズでOKかと思っています。

で、先程話した、作業用の長靴のことなのですが、履きなれるとこれが非常にに歩きやすく、例えば、太郎平小屋から折立へ下山するのにも、長靴とごつい登山靴を比べると、長靴のほうがタイムを短縮できたりします(あくまで、履き慣れてていて、足の裏が強くなっていればの話ですが・・・)。底が柔らかいので滑りやすい岩や木の根っ子なんかにもがっちりグリップしますし、山での生活には欠かせないアイテムです。この便利な長靴、たいていは、小屋に古いのがいくつかあって、これを使わせてもらうのですが、サイズが限られるので、荷物に余裕があれば、マイ長靴を持っていくというのもありだと思います。日本野鳥の会のオリジナル長靴なんかは、小さくおりたたみもできて、デザインもおしゃれでいいですよ。あ、それと長靴はゴム素材なので、多少サイズが合わなくてもはけてしまうのですが、これがかえって危険で、サイズの小さいものを無理して履いていると、足の爪が壊死してしまいます。僕もこれで二回ほど、足の親指の爪をはがしていますので、サイズには要注意です。

 *雨具

  これも、ゴアテックスの雨具が定番です。普段つかっている物があればそれで結構なのですが、男性スタッフは雨の中での登山道整備等、外仕事がありますので、高級なゴアテックスハードシェルだけしかなかったりすると、作業でボロボロになる可能性もあるので、そこらへんを考慮して、別に安い物や、使い古しの雨具などを持っていくといいと思います。モンベルの一番安いやつとかで十分です。作業用ということなら、ワークマンとかの安い物でもいいかと。小屋の人は、たいてい、古くなってボロボロになった雨具を作業用にしています。あと、ゴアテックスのスパッツもあったほうがいいでしょう。個人的には、雨具のフードをかぶるのが好きではない(音がきこえないし、なんとなく窮屈)ので、ゴアテックスの帽子も必ず持っていきます。これは銘柄的にはアウトドア・リサーチの物がつばが広くて、使いやすくてお勧めです。雨の日に下山・・・なんってこともあるし、小屋回りでも雨の日に使えるので、登山用の軽い雨傘があっても便利です。下山日が雨だったりすると街中をカッパ着て歩くことになりますしね。

 *ザック

荷物の量は人によってそれぞれですが、だいたいみんな、60-70リットル位のザックで来ています。はっきりいって、山での1ー2ヶ月なんて、あっという間なので、あまり余計な物は持っていかないのが一番です。なので、50リットルくらいのザックで済ませたいところなのですが、どうしても、こだわりたい物(カメラやタブレットとか)で、ついつい大荷物になってしまいます。私は最近は、グレゴリーの70リットルのザックをつかっていますが、結構すかすか状態で使ってます。だんだん、小屋生活に、どうしても必要な物がわかってくるので、年々、荷物はコンパクトになってきています。昔は75リットルのザックがぱんぱんな状態でした。もし、新調するなら、ザックと登山靴だけは専門メーカーの物を買うことをお勧めします。専門メーカーというのは、ザックなら、ザックだけを、デザイン&製造しているところ(グレゴリーとか、オスプレーなど・・・)です。一番体にダイレクトに接して、負荷のかかる道具ですから、しっかりしたものを選びましょう。個人的にはグレゴリーのザックが一番背負いやすいのですが。こればっかりは体型にもよるので、実際にお店にいって背負ってみないとわかりませんね。

 ■ちょっと裏技

 初めての小屋では難しいかもしれませんが、カメラなんかも一眼レフ&交換レンズ一式となると、それだけでかなりの重さになります。他にも、人によっては、嗜好品のタバコとかお酒なんかも、かさばりますね。この手の物は、小屋によっては、ヘリの荷揚げの時に一緒に上げてくれることがあります。小屋入りの前に、事務所にダンボールで送っておき、ヘリコプターで荷揚げする際に、一緒にあげてもらうという方法です。何度もバイトに来ている常連さんなんかは、わざわざ担いで上がらないで、こうしている人が多いです。小屋というか、オーナーさんによって、段ボール一個だけならOKとか、お酒はダメとか、事情が違うので、事前に問い合わせてみるといいです。といっても、小屋入りから、最初のヘリの荷揚げまでの期間に使いたい物はやはり担いでいくことになります。そうそう、北アルプスの小屋では、系列にもよりますが、たとえば、太郎グループだと、夕食時に、ビールでも、酎ハイでも、炭酸飲料でも、お菓子でもなにか一品、好きな物を選べます。


あと、従業員用のお菓子をダンボールでまとめてあげている小屋もありますし、ここらへんも気になるなら事前に問い合わせてみるといいでしょう。 

2011年4月24日日曜日

行ってきます

 さてさて、火曜日から、南アルプスの鳳凰小屋の小屋開けに行ってきます。今年で4回目、足掛け五年になります。GWだけなんで、期間は短いのですが、それでも、今年は5/8までなので、二週間近くになります。帰ってきたら、ご報告いたします。

五月からは、山小屋で働く際に持っていくもの等を整理してみましょう。それでは、行ってきます。

2011年4月11日月曜日

第8回 山小屋の仕事(3)(受付編)


■ 行く山小屋は決まりましたか?

 山小屋のバイトの募集は、早いところは年明けくらいから始まります。たいてい小屋開けはGWですから、それまでには、長期のアルバイトは決めておかないと小屋としても困ってしまいます。中期のバイトも、6月下旬には小屋入りしてもらって、最繁期までに仕事に慣れてもらわないといけません。短期のバイトは結構直前、場合によってはシーズン中も募集していることもあります。通常は、まず、電話でコンタクトをすると、登山や山小屋の仕事の経験の有無、働きたい期間等を聞かれ、履歴書を送付。採用だと、その旨連絡が入り、その後、契約書が送られてくるので、サイン&捺印して、返送。これで、正式に採用となります。入山までは、持っていく物の準備するのと、前にも書いたけれど、今まで登山を全くしたことないっていう人は、近場の山でちょっと足慣らししておいたほうがいいかもしれません。7月から山小屋に行くなら、5-6月と月に1-2回くらいは歩いておいたほうがいいかな、靴が合っているかのチェックもできるし。だいたい、アルプスの稜線ちかくの小屋だと、登山口から、1000メートルくらいの標高を登ることになるので、東京近辺だったら、奥多摩か、丹沢あたりの日帰り登山で鍛えとけば問題ありません。

■ 受付の仕事とは?

 登山道整備の仕事、厨房の仕事と書いてきたので、もう一つ、受付業務についても簡単に説明しておきます。といっても、初めて行く小屋で受付の仕事をすることはまずないと思いますが、小さい小屋だと、人手が足りないときに、ちょこちょこと、しなければいけなくなる時もあるかとおもいます。でも、山小屋の受付っていうのは結構、デリケートな面もあるので、ある程度慣れた人でないと、何かとトラブルの元になることがあります。

 業務的には、来たお客さんに、宿泊カードを記入してもらい、食事の内容や翌日の弁当の有無なんか聞いて、宿泊料をいただきます。それから、寝る場所を決めてあげて、そこまで案内。その際に、トイレや乾燥室等の諸施設の場所や利用の仕方なんかを説明します。食事や弁当の数は常に変化しますので、間違いがないように随時厨房に連絡を入れます。最後に、すべてを集計し、帳簿に記入します。これを、併設された売店をさばきながらするので、最繁期はトイレにもいけないくらい忙しくなります。お客も様々で、難しい注文をする人もいますし、ツアーの添乗員さんとかだと、いわばお得意さんになるので、寝る場所などは、特別に配慮しないといけません。それでも、お客さんの少ない時は適当に世間話もできますし、いいのですが、最盛期に布団2枚に3人寝てください・・とか、さらには、布団1枚に2人でお願いしますとかいう、厳しい混雑状況になってくると、大きな小屋では、受付前に、大行列ができますし、結構なプレッシャーが、かかります(笑)

 こういう状況だと、お客さんもなかなか小屋に入れず、イライラしてきますし、従業員の側も応対にいっぱいいっぱいで、ちょっとしたことで、言葉や気遣いが足りずに、お客さんを怒らせてしまうこともあります。よくあるのは、予約を大幅に上まるお客さんが来た時。最初、1人に布団1枚で案内していたのが、場所が足りなくなり、途中から2枚に3人で寝てもらうように案内を変えたりすると 「あっちの部屋では1人に1枚に布団があるのに、待遇が違うじゃないか!」とか、「3人で2つの毛布って、真ん中の人はどうやって布団かけるんだよ!」とか、ごもっともなクレームをつけられてしまいます(笑)。でも、高天ヶ原くらい山奥になるとw さすがに皆さんわかっている人しかこないので、何があっても、皆さんニコニコしています。いいお客様ばかりで、大変助かっていますw

 なので、予約数と曜日、時期、お天気等から、今日はたくさん来そうだなと思ったら、最初から、タイトに押し込んでしまうとか、一番多い男性の単独のお客さんは、大部屋にぎっしり詰め込んでしまうとか、部屋割りのコツはいくつかあるのですけど、これも、ある程度の慣れが必要となります。あと、登山道の状況や、次の目的地までの所用時間等はよく聞かれるので、周辺をある程度歩いたことのある人でないと、的確にアドバイスできないばかりか、危険でもあります。特に、沢添いのルートはお天気に左右されるので、注意が必要です。ここら辺は、黒部源流部では、小屋間の無線で、常時連絡を取り合って、リアルタイムに登山客に情報を提供できるシステムが出来上がっています。

 とはいえ、厨房の仕事と違って、実際に様々なお客さんと接し、話もできますので、私のように、話好きなタイプの人は、楽しく働けるポジションだと思います。まあ、たまに嫌な目にもあうこともあるけれど、その何十倍も楽しいこと、嬉しいことがありますから。私の場合は、黒部源流域で、あちこちの小屋で働いているので、お客さんが覚えていてくれて、「あれ?前に、あそこの小屋にいましたよね?」と、聞かれることも結構あります。意外とみなさん、覚えていてくれんですよね。こちらは、大勢のお客さんの相手をするので、余程、特徴のあるお客さんじゃないと、顔まで記憶に残らないのですが、普通のお客さんは、山小屋に泊まる、しかも北アルプスの最深部にっていうのは、ある意味特別なことなので、こちらのことをじっくり観察しています(笑) なので、身振り、言動には常に気をつかわないといけません。

 そういえば、太郎平小屋で、キャンプ場の管理をしていたときに、登山口に駐車した車にサイフを忘れてきてしまった若いご夫婦がいて、せっかく登ってきたのに受け付け出来ないとも言えないし・・・、結局、下山してからの代金を振込んでもらうことにして、滞在してもらったことがありました。後日、代金の振り込みはもちろんのこと、箱詰めのクッキーまでお礼にということで送っていただいたりしました。でも、私が下山しているときに届いたので、山小屋に戻った時には、全て食べられてしまっていました(笑)

■ 今日の写真


 今日の写真は、高天ヶ原のトンボ。なんでも、ここらへんは、珍しいトンボが生息しているらしく、マニアにはたまらない所らしいです。虫好きの人って、山にも結構いるんですよね。南アルプスの鳳凰小屋のご主人、細田さんも、大の虫マニア。なんでも、自分で発見した新種の昆虫がいくつもあって、ホソダなんとかっていう学名までついているらしい。後世に名を残したいなら、虫屋になるのが一番の早道かもしれません(笑)

2011年3月22日火曜日

第7回  山小屋の仕事(2)(厨房編)


■ 厨房の仕事ってたいへん?

 山小屋での仕事で、一番手間ひまかかるのは、やはり、食事の準備になるでしょうか。なにせ、数十から、多い時は、小屋の規模によっては数百人分の食事を用意しないといけないのですから、食器、プレートを並べて盛り付けするだけでも大変なことです。たとえば高天ヶ原山荘のような小さな小屋だと、食堂の定員は24名、ここで、100人が食事をとるとなると、最低、5回は入れ替えないといけません。伝えた食事の時間通りにこない人やら、暗くなってから小屋に到着する人、温泉に行ったきりもどってこない人w・・・等、予定通りにはいかないですから、実際は5回+αの入れ替えとなります。食器の数は50セットしかないので、下げたものを再度洗って、さらに盛り付けて、また配膳して・・っと、これの繰り返しになります。さらに、お弁当も作らなくては・・っと、最盛期の厨房は、実に大忙しです。気がつくと、もう、消灯時間・・・。そして、暗い中、厨房で夕食なんてことも・・・。そんなことも、小さな小屋では、ワンシーズンに何回かあります。逆に、大きな小屋だと、数百人分の食事を用意しないといけないのですけど、その分バイトの数も多いですし、効率よく分業体制ができてますので、そこまで遅くなることはないのです。どちらがいいかは、一概にはいえないのですけどね。

 食事の内容は、各小屋の厨房の担当者が考えて、毎年ちょっとずつ手を加えていくので、担当者が変わると内容もがらっと変わったりするのですが、その小屋の長年の定番メニューってものはあります。たとえば、北アルプスの双六小屋や黒部五郎は昔から夕食のメインは天ぷらで有名ですし、南アルプスの鳳凰小屋のおかわり自由のカレーライスも、ずっと定番です。ここ6年ほど、通っている、高天原山荘も、昔から夕食は、天ぷらが名物、だったのですが・・・5年前に小屋番さんがかわり、今はチーズハムカツがメイン。私は、いつも高天では揚げ物担当です。天ぷらや揚げ物は目が離せないので、お客さんの多いときは、ず~~と、天ぷら鍋の前に張り付いています(笑)、一昨年は厨房の建て替えで、臨時の小さな厨房での作業だったので、大変でした。その厨房も、昨年ピッカピカに新しく、大きくなって、最高の作業環境になっています。双六グループの小屋はどこも厨房が広くて作業しやすかったなあ。

 小屋の厨房での仕事は、たいてい、料理品目ごとの担当制になることが多いです。たとえば、ご飯とみそ汁は長期バイトのK君、天ぷらはJ君専任、煮物は女性のNさん、といったように、各自の仕事を割り振られるか、得手不得手で自然と分業になりますから、それをこなしつつ、大変な人がいれば、手伝ってあげつつ、手が空いた人から、盛り付け、配膳、お弁当つくり、洗い場にまわるといった感じです。メニューは普通、2種類考えてあり、一日おきに変える小屋もありますし、連泊のお客さんがいる時だけ、別メニューにする場合もあります。さすがに山小屋に三連泊する人はめったにいないので、2パターン用意すれば、たいていはそれでなんとかなるのです。たとえば、ことしの私は高天ヶ原山荘の厨房で何をつくっていたかというと、キャベツの千切り/チーズハムカツレツ/菜の花のおひたし/アンチョビのパスタです。それと連泊のお客様にだす天ぷらも揚げていました。でも、料理は楽しいので、苦にはならないかな。


 
■ アルバイトは何を食べるの?


 従食っていう言葉をきいたことありますか? 従業員の食事のことを、山小屋では、従食とよびます。いわゆる、まかないというやつです。お客さんに出す料理は、遅くなってから小屋に到着する登山客もいるので、少し多めに用意するので、普通は余りがでますので、基本的にはこれをいただくことになります。でも、さすがに、毎日同じものでは飽きてしまいます・・・なので、日替わりで担当を決めたりして交代で、何か1~2品付け加えたり、常連のお客様や遊びにきた元アルバイトの方々がおみやげに持ってきてくれたものをいただいたりという感じです。たとえば、登山口に近い、太郎平小屋とかですと、富山から登って来る人が多いですから、豊富な海の幸(昆布〆とかイカ墨とか・・)を差し入れに持ってきてくださる方々がたくさん登ってきます。まだ、お客さんの少ない時期などは、食堂でお客さんと、同じ時間に食事になったりしますが、従業員の食事のほうが、ずっと豪華だったりすることもたまにあります(笑)。まあ、お客さんの前で、お客さんより豪華なものを食べてはダメ!っという小屋番さんもいるし、たしかにちょっと気まずいのですが。ここ数年、高天ヶ原山荘は工事続きで、常に職人さんが、多い時は10人近くいたので、そちらの食事も用意しなくてはいけないので、ちょっと大変でした。その工事も一昨年に完了し、綺麗な厨房と、バイオトイレのおかげで大変快適な小屋に生まれ変わりました。
 
 そんなわけで、必ず従食用に、一品何か作ってくれない?っていわれると思いますから、時間がかからず、どの小屋にもある食材だけで、ささっと料理できるものをを2ー3種類練習しておくことを、お薦めします。食材は、小屋によってあるものがまちまちなので難しいのですが、大抵のものはあります。ただ、発電機を使わない小屋ですと、冷蔵庫がないですから、肉はハムやベーコンくらいしかなかったりしますので、限られた食材で、素早く、美味しく工夫して料理できる人が喜ばれます。あ、あと、お菓子(ケーキとかクッキーとか)やパンとか作れたりすると、ポイント高いです~。どの小屋にもケーキミックスくらいは置いてあるはず。ちなみに、下の写真は高天が原山荘で前日の夕食で余ったチーズハムカツを利用して作ったカツ丼です。こんなんだと、ネギと出汁つゆ、とき卵で、10分でできちゃいます。簡単でおいしいんです。

■ 山小屋のお風呂について


 最後に山小屋のお風呂について、話しておきましょう。高天ヶ原山荘には、小屋から歩いて15分くらいのところに、天然温泉の露天風呂があって、アルバイトも毎日入れますが、これはありえないくらい恵まれた例です。普通、どこの山小屋にも従業員用のお風呂はありますが、たいていは、厨房の裏手とか、または小屋の裏に別棟になっていたりします。ユニットバスをヘリコプターで上げて使っていたり、シャワーだけだったり、薬師沢小屋などは、以前は、五右衛門風呂を薪で沸かせていました。そこらへんは、小屋ごとに様々です。しかし、水を天水(雨水)だけで、やりくりしている稜線の小屋などは、その貴重な天水を沸かして、オケに入れて、タオルで、体を拭くだけっていう所もあるので、そこらへんが気になる人は事前にチェックしておいたほうがいいかもしれません。ちなみに私は、お風呂なしの小屋で働いたことはないのですが・・・結構きついかもw 普通は、一週間に2-3回程度、お風呂の日があって、順番に手のあいた人から入っていきます。高山は基本的に乾燥しているし、涼しいので、汗もさほどかかないのですが、さすがに3日もすると頭が痒くて我慢できなくなってきます(笑)。石鹸やシャンプーは小屋にありますので、持って行かなくても大丈夫ですよ。

 山小屋での生活は、他人との共同生活ですし、常にお客さんの視線もありますから、特に神経質な人でなくとも、気が休まらない部分もあるかもしれません。風呂は、そんな中一人で、ほっと一息つける貴重な時間でもあります。下の写真は高天ヶ原の露天風呂。源泉と、川の水を混ぜてホースでひっぱってきてるんですけど、その混ぜかげんで温泉の温度を調整するのも大切な仕事のひとつなんです。なにせ皆さん、このお風呂が目当てでやってくるのですから。

2011年3月2日水曜日

第6回 閑話休題(今後について想うこと)

 こんにちは!はる@です。今回は、具体的な仕事の内容からは一旦はなれて、諸々の話をしましょう。そういえば、以前、mixiで、友録申請が来ていて、誰かと思ったら、前に太郎平小屋の受付で一緒に働いていた、当時はまだ慶応大学のSFCの学生さんだった、タイラ君からのものでした。なんでも、その翌年は五色ケ原の山小屋で働いていたそうで、無事、就職も決まったとの報告。リゾート関係の有名な会社への就職のようなので、面接の時にも、小屋での経験は役立ったんじゃないかな。彼も、山小屋のアルバイトがきっかけで、山好きになった一人です。こうして、色々な年代や土地の人と繋がりができていくのも、山小屋アルバイトの面白いところかもしれません。まあ、それだけ、山は魅力があるってことなんでしょうね。
■今後の個人的山小屋生活
 現在(2011年3月)、私もこの夏はどこの小屋にお世話になろうかと思案中なのですが。これまで、あちこちの山小屋で働いてきて、色々な小屋を見られて楽しかったし、比べて見ることによって、初めて、それぞれの小屋の良さがわかることも多いのですが、しかし、決していつまでも、あちこちふらふらとしていていいとも言えず、そろそろ安住の地を探す時期かなーとも思っています。どこに落ち着くにしても、オーナーや小屋番さんと気が合うというのが大前提でしょうが、人、山、小屋の居心地、仕事環境、写真の被写体として魅力、沢登や釣りなどの休憩時間のアクティビティと、選択のための要素はたくさんありますが、全てを兼ね備えた所っていうのは、なかなかありません。
*現在(2015年1月)、4年前には↑のように書いてますがw ここのところすっかり高天ヶ原山荘にお世話になっております。もう他にいくこともなさそう・・・
 もともと、登山は30代半ばにもなってから友人に誘われて始めたのですが、実は、一度やめかけた時期もありました。一通り有名どころの山に登ってしまって、ちょっと飽きてしまった頃です。その頃、出会ったのが山小屋での生活と趣味としての風景写真でした。ちょうどデジタル一眼レフが一般の人にも手が届く値段になってきた頃ですかね。なんというか、登山者として山を外から眺めているのと、山小屋の従業員としてそこで生活しながら、内側から眺めているのは結構大きな違いがあり、わくわくしながら、この11年間を過ごしてきましたが、この先、さらに充実させるためには、どうすればいいのか、そして、ここからの経験から自分は何を表現出来るんだろうと、思案中でもあります。山登りの形態としては、沢登りがメインになっていくと思いますが、やはりこれも、谷という、内部から山を見ることになり、登山道を歩くだけでは見えてこない、新たな発見があると思うからです。
 *↑のようなこと書いてますがw 最近は建築よりもランドスケープデザインの仕事をメインにするようになりました。これも、自然のなかで暮らし、風景ばかり撮っていたからなのかもしれません。
 上の写真は、春の鳳凰小屋で、倉庫整理をしていてでてきたリカールの一本。何十本もあるのだけれど、様々な山の幸を焼酎に浸けこんであるんです。これは、1984年とあるから、もう35年物。オーナーもあまりお酒を飲まなくなってしまったので、僕らがせっせとのまないと(笑)。どこかにカウンターでもしつらえて、山のお酒のショットバーでもやろうかと冗談交じりに話してたけど、やったらほんとうに売れそうだ。こんな得体のしれない酒瓶がずらーっと並んだバーが森の中にあったら、みなさんなら、一杯いくらくらいなら、飲んでみたいと思いますか?しかし、シャクナゲを漬けたお酒って、どんな味なんだろうか。

2011年2月16日水曜日

第5回 山小屋の仕事(1)(山仕事編)

■山小屋の仕事

さて、今回の本題のなのですが、では、具体的に山小屋でどういう仕事をするのか?ということなのですが、 大きく分けると、
1、雪かきや登山道整備等の力仕事
2、厨房での料理、配膳、片付け
3、受付・売店業務
4、小屋の維持管理(清掃、水源メンテナンス等)
5、荷揚げ(ヘリコプターでの荷揚げや歩荷(ボッカ))   という感じに分類にできるでしょうか。4-5は別の機会に説明するとして、3回に分けて、1-3の業務について、書いていきましょう。今回は、1の山での力仕事について書いてみようと思います。

■ 山小屋で最初にやるべきこと

 GWの鳳凰小屋はもとより、中期のバイトが小屋入りする6月末の北アルプスも、標高2000メートル以上は、南斜面以外はまだまだ雪が残っています。そんな小屋に到着して、まずしなくてはいけないこと・・・って、なんだと思いますか? 生きていくのに一番必要なもの・・・そう、飲料水の確保です。水は近くの沢から引いて来るのですが、その沢は・・・そうまだ雪の中。毎年、水を取る場所は決まっているので、お目当ての場所にいき、位置を確認してから、ひたすら雪に縦穴を掘る・・・・。その年の雪の量にもよりますが、3〜5メートルは掘ります。とにかく雪の下の沢の水が見えるようになるまで。そこから、ホースを水平に小屋まで引いていかないと(実際にはゆるい傾斜をつけて)いけないので、沢の下流に向けて、水平に、掘る、掘る、掘る・・・、これで、ホースの通り道が完成し、小屋までホースを伸ばしていくのですが途中も山あり谷あり。ホースに空気が入ってしまったりで、なかなか容易ではありません。

 双六小屋なんかは、裏山にいい湧水があり、あまり苦労せずに飲料水を得られるんですけど、だいたいどの小屋でも、飲料水の確保がまずは、小屋開けの一大イベントです。で、これは、男衆の仕事であります。鳳凰小屋では、小屋の前の広場の洗い場まで、このホースを引っ張っていき、水を出しっぱなしにします、一帯に水の音が響きわたり、やっと、「ああ、今年もシーズン始まったか・・・」っと、初めて、ほっと一息つけるのです。ただこれは、長期や中期のバイトの人の仕事なので、短期のひとが来た時にはすでに、準備はととのっています。でも、水源ってどういうところなのかな?っと、場所を聞いて見にいってみるのもいい経験になりますよ。小屋の生命線なので、決して水源は汚さないように!

■ 登山道整備って?

  とりあえず、水の確保ができると、 女性が小屋の中を整理したりしている間に、男衆は、登山道の整備にでかけます。海の日近くなって、お客さんがたくさんくるようになると、もう外仕事にでる時間はありませんから、この時期に、昨年に伸びた草や木の枝を刈り、木道や梯子などの故障箇所を直したり、川に橋をかけたりして、登山道をすこしでも歩きやすく、安全な状態に整備します。あと大切なのは、登山道のマーキング。こっちが登山道ですよーっと、印をつける仕事です。これはペンキで岩に○をつけたり、石を置いたり、木の枝に赤いテープを巻いたり、その場所によって、どの方向から来ても、歩く方向がわかるように、最適な目印を付けていきます。   外仕事は山小屋の仕事の中でも、一番肉体的にきついですし、チェーンソウや草刈機等も使うので、危険でもあるのですが、僕は実は一番好きな仕事です。背負子に大きな木槌(かけや)やら、鎌やら、必要な道具をくくりつけて、お弁当をもって、作業をしながら、まだ誰も歩いていない登山道を整備して回るのです。お昼にほおばるおにぎりの美味しいことといったら・・・。こういう作業は、小屋が忙しくなる前に済ませてしまわないといけないので、7月半ばくらいまでの仕事となります。で、こうした作業の帰り道に、前に紹介した、あまなや行者ニンニク等の山菜を取りながら、だいたい3時前頃までには小屋に戻ります。戻ったらすぐに夕食の準備です。
    そうそう、今までで、登山道整備で作った一番おおきなものといえば、黒部湖に流れ込む菊沢という沢に作った片側90段くらいある梯子でしょうか。梯子といっても、この長さなので、途中に踊り場も二箇所設たりして、かなり本格的な工作物です。谷なので、当然反対岸にも同じくらいの物を作るわけで、二人で作業して、10日以上かかりました。この年は、せっかくかけた橋を全て鉄砲水で流されて作り直したりと、今思うと、ありえないくらいハードな一夏でした。山小屋生活1年目のことでしたので、わけもわからず働いていいたんですねw


 今回の写真は、子どもの写真をアップ。2010年に高天原山荘にいた時に小屋に遊びにきた、水晶小屋の小屋番夫妻のお子様です。 登山というと、歩いてるのは中高年が多いので、子どもがよちよち歩いていると凄い違和感があります。でも、次はこの子が次代の水晶小屋を継ぐのかな? このあと、背負子に乗せられ、水晶小屋に戻っていきました。

#追伸

そうそう、この伊藤正一さんの長男夫妻は、現在は、三俣山荘の小屋番をしています。たまには他の小屋に遊びにいかないとな。黒部五郎小舎もご無沙汰してしまって・・・今年は、あちこち挨拶回りにいこうかな。

2011年2月1日火曜日

第4回 中期バイトの勧め



■ 山の診療所

 ところで、みなさん、山にも病院というか、診療所があるって、知っていますでしょうか? 昭文社の山地図なんかにも、診療所のある山小屋には、その旨記載されてますけど、泊まっているお客さんでも、知らない方、結構多いんです。やっている期間はたいていは、以前の海の日(7月20日)頃からお盆過ぎまでと、最繁期だけですが。たとえば、黒部源流部だと、太郎平小屋には、日本医大の診療所が、双六小屋には、富山大学医学部、三俣山荘は、岡山大学と香川大学の医学部が共同で診療所を開設しています。縦走の起点となる、大きめの小屋に設置されていることが多いようです。

 どこの診療所も、各医科大学の山岳部OBを中心に学生や看護師の方々が交代で山に登って来てくれるのですが、最近は、どこの大学でも山岳部は人が集まらず・・・運営には苦労されているようです。実際、診療所に誰もいない期間も結構あって、ちょっと問題になっています。あくまでボランティアでお願いしていることなので、来てくれる人がいなければどうしようもないのですが・・・   利用される方は、軽い怪我(捻挫のテーピングや虫刺され等)で利用される場合が多いのですが、高山病で熱が下がらず、診療所に泊まっていく方もいます(重症の場合はヘリコプターを呼んで、即入院ですが、医師がいないと、ここらへんの判断が難しいのですよね)。山小屋の従業員が、この診療所にお世話になることも多いのですが、こういった診療所のある大きな小屋でないかぎりは、山小屋には薬関係といっても、薬箱一個あるだけだったりするので、常備薬がある場合はもちろん、抗生物質と風邪薬くらいはもっていったほうが無難です。手を包丁で切ったりすると、なにせ、毎日の洗物の量が半端じゃないので、なかなか傷口がふさがらないで化膿してしまったり、朝晩の寒さで、うっかり風邪をひいてしまうこともあるので。





■山小屋での仕事



  さて、本題の山小屋バイトの話に戻りましょう。実際にバイトって、どんな仕事をしるんでしょうか? 小屋にもよるのですが、 たとえば、ここ6年通っている高天ヶ原山荘での、一日のスケジュールを例としてあげると、



3:30 起床

3:40 〜4:20 朝食準備

4:20〜4:50 配膳

5:00〜 朝食

5:30〜 食器下げ



5:30〜 6:00 食器洗い

6:15〜6:40 スタッフ食事準備

6:50 スタッフ朝食

7:15~8:00  休憩 8:00〜8:15 ミーティング

8:15〜10:00 スタッフ全員にて、清掃

10:00〜10:30 休憩(お茶)

11:00〜13:00 食堂・売店の切り盛り

13:00〜15:00 休憩

15:00〜16:30 夕食準備

16:30〜16:50  配膳

17:00〜18:15 夕食(2回分、盛り付け、配膳の繰り返し)

18:15〜19:00 食器洗い

19:00〜19:30 スタッフ夕食

19:45解散

20:00 消灯、就寝


 7月下旬〜お盆過ぎまでの最繁期の一日のスケジュールは、ざっと、こんな感じです。休憩は日によって交代で、午後に1~2時間です。休憩時間は散歩に行ったり、本を読んだり、人それぞれですけど、たいていは、忙しい時は、早朝から働きっぱなしなので、昼寝してしまうことが多いですかね、なにせ朝早いので。じゃないと連日の激務で体がもちません。でも、ずっとこのスケジュールというわけではなくて、中期以上の期間のバイトであれば、ローテーションを組んで、何日かごとに少し長めの休憩をもらえたり、朝も交代で遅く起きてきたりできる仕組みになっています。でも、前回お話したように、小さい小屋で、ぎりぎりの人数でやっているところだと、あまり休めないところもあるかも。とはいっても登山客の少ない時期は、一日遊んでるようなものなのですがw

■ 中期バイトの勧め
  いかがでしょう? 自由になる時間って、思ったより少なくないですか? なので、山でゆっくり過ごしたいっていう方は、時間が取れれば、中期以上でバイトに入ったほうがいいと思います。短期の1ヶ月というのは、いちばん忙しいときに、だーーっと働いて、はい終わりっていう感じですので(それでも、いい経験にはなりますが)、せっかく山でのんびり過ごせる良い機会なのに、勿体無いと思うんですよね。山小屋は、ちょっと登山シーズンはずれれば、お客さんも一桁なんてことも。昼間はカメラを持ってのんびりお散歩か、川でイワナ釣りでもっていうのが、バイトにとっては一番幸せな時間なのです。  


■山小屋の電気


 今日の写真は、温泉とランプの宿で有名な、高天原山荘の灯油のランプ。ランプの宿といっても、さすがに、夜は作業がしずらいので、太陽電池で充電した無線用の蓄電池を利用して、厨房だけは一個の裸電球で照明できるようにしてあったのですが、数年前に、常連のお爺さん(定年前は中学の理科の先生だった方)が、LED電球を厨房3つ付けてくれて、さらに、明るく作業しやすくなりました。   高天ヶ原は一切発電機をまわさない特殊な小屋ですが、普通はどこの小屋も灯油で動かす大型の発電機を持っていて、朝、食事の準備のために、起床後すぐ発電機をまわし、お客さんが出発していなくなるくらいまでか、掃除に掃除機を使う場合は掃除が終わるまでコンセントが使えます。発電機は、昼間は基本的に止めておいて、夕方3時頃に再度つけて、消灯の九時までは、回しっぱなしといった感じでしょうか。なので、携帯などを充電したい場合は、基本、発電機が動いている間しかできませんので、ご注意あれ。でも、たいていの小屋は、無線機器等のバックアップ用として、バッテリーに充電もしているので、どうしてもというときは、小屋番さんにこっそり聞いてみてください。以下の記事も参考に・・・




山小屋と電子機器

2011年1月21日金曜日

第3回 山小屋で働く人々


 私は山小屋で夏を過ごすようになってから、普段の東京での生活では、あまり山には行かなくなってしまいました。なんというか、1ヶ月以上、山でのんびり過ごすと、山への欲求はある程度それで満たされてしまうようです。下界ではもっぱら、毎日の水泳と自転車、ランニングで体力づくりをしています。水泳、自転車、ランニングは山登りと一緒で、有酸素運動になるので、心肺機能を高めるっていう意味では登山のトレーニングになるのですが、やはり重い荷物を背負って登る登山は、関節や筋肉に大きな負荷がかかるので、出かける前に、実際に山に登って、少しでも山用の体をつくっておいたほうがいいと思います。僕の場合は山小屋行きの数ヶ月前から、月1~2回程度、奥多摩や丹沢、八ヶ岳あたりに歩きにいくようにしています。山小屋バイトで小屋に入る時は、高天ヶ原山荘みたいに、まるまる2日間歩かないといけない場所もありますしね。それと男性なら30Kgの米袋くらいはやはり持ちあげられないといけないので、筋トレも少しするようにしています。



■山小屋の防寒対策



 そうそう、標高の高い山って、やっぱ夏も涼しいんでしょ?ってよく聞かれますが、シーズン中の山小屋ってどれくらいの気温だっけと思い出してみると、標高2400mくらいの小屋で、繁盛期の7月中旬〜8月中旬で、朝晩は3度〜8度、日中で、10度〜20度くらいです。しかし、8月下旬ともなると急に気温も下がって、時には氷点下まで冷え込みます。初めての人だと、夏山ってことで、薄手のフリースくらいしか持ってこない人がいますけど、実際はかなり寒いです。僕はいつもフリースのほかに防寒服として、薄手のダウン・ジャケットや、化繊の綿入りのベストを持っていきます。いわゆる、インナーダウンとか呼ばれているものですが、軽くてかざばらないので、重宝しています。先日は、釣りや、沢登りも考慮して、水にぬれても防寒性能が変わらない、パタゴニアのナノ・パフベストを買い足しました。ダウンは水に濡れると、保温性なくなりますからね。2016年には、ナノエアー・ベストを追加購入しています。

 山小屋では、夕飯の片付けが終わってから、バイト同士でお酒を飲む機会も多いのですが、小屋はどこも9時には消灯。高天ヶ原にいたっては、8時に消灯です。お客さんは疲れていて、夕飯後、すぐ寝てしまうので、しーんとした中、ちょっとの会話でも小屋中筒抜け・・・山小屋って防音性ってぜんぜんない作りのとこばかりなんですよね。たいていは小屋の中で飲んで喋っていると、お客さんに 『あの~、うるさくて、眠れないのですが?』とやんわりと怒られるはめに・・・なので、しょうがないから、外にお酒を持って行って飲むこともあります・・・他にも、みんなで夜の散歩にいったり、小屋によっては、電話をかけに裏山に登ったりと、気温の下がる夜に行動することも多いので、防寒対策はぬかりなく! 靴下なんかは、強暖かくて、強くて、汚れない、臭わないw のメリノウール製が一番です。



■山小屋で働く人々

 さて、話は変わって、今回は、山小屋で働いている人達についてお話しようと思います。どこの山小屋にも、持ち主(オーナー)がいて、その下に、各小屋(複数の小屋を経営している場合)を管理している小屋番(支配人と呼ぶところもあります)といわれる人がいます。まあ、旅館の番頭さんみたいなものです。オーナー=小屋番のこともありますが、たいていは別です。小屋番は小屋開けから小屋締めまで常駐し、バイトを率いて小屋を切り盛りする人で、その小屋のお金の管理や、荷揚げする物の発注なんかを取り仕切ります。年齢的には、20代~70代まで様々。  山小屋のオーナーは普段は下の事務所にいて、ハイシーズンだけ登ってくるというパターンも多いです。まあ、オーナーはお殿様みたいなものなので、逆らいようがありません(笑)。今のアルプスの山小屋のオーナーの方々は、年齢的には70代前半の方が多く、現在の山小屋文化を、ある意味、掘っ立て小屋時代から今の状態まで、築きあげて来た方達なので、どの方の話もとても興味深いです。もし、同席する機会があったら、昔の苦労話とか失敗談とか聞いてみるといいですよ。楽しい話を一杯聞かせてもらえます。ある小屋のオーナーは有名な山岳写真家でもあるので、写真の助手を連れて、7月中旬〜8月中旬くらいまで小屋に滞在し、天気が良ければ助手と一緒に朝から、夕方暗くなるまで写真を撮りにでかけ、夜は登山雑誌や山岳写真関係の常連さんや、行政関係の方々をもてなすのが一日のスケジュールです。でも、この方なんかは、特別な例で、たいていはオーナーといっても、ごくごく普通の方々です。 しかし、この山小屋オーナーさんたちも、年齢的には70歳をこえる方も多く、現在は新旧交代の時期に入っていて、3代目の30代位の方が実質的なオーナーというか、実務責任者であることも多くなってきています。アルバイトも年齢がある程度いっていると、考え方の違いとかで小屋番と衝突することもよくあるし、実際、男性の場合はきつい肉体労働もあるので、年齢的には35歳くらいまでの方という言い方でバイトを募集している小屋が多いのですが、実際は40代~60代の方で働きにこられる方もたくさんおられます。でも、台所仕事が全くできないとなると、厳しいので、包丁さばきと、料理の基本くらいは練習してから小屋入りしたほうがいいかと思います。

 で、その、オーナーがいて、小屋番がいて、私達アルバイトはその元で、働くことになります。シーズン中の人の流れでいうと、北アルプスのある小屋を例にとると、小屋番と長期のバイト数人が、雪がまだ深く残る4月末に小屋入りし、小屋の周囲を雪かきしながら、GWに山スキーのお客さん達を向かい入れます。GWを過ぎるとお客さんもすくなくなるので、登山道の整備にでたり、小屋の中を整理したり。その後、6月下旬ころに中期のバイトが参加し、その年のコアとなるスタッフが揃います。そして、海の日あたりから本格的な登山シーズンに入ります。7月中~下旬には学生等の短期のバイトも加わって一番登山客のの多い、8月の第1週~お盆を乗り切り、やっと一息つけるようになります。この頃から、短期のバイトは、順次下山していきます。

  

 実際に山小屋で働くとなると、なにせ長期の共同生活になるので、他の人とうまくやっていけるかというのが一番重要です。というか、やっていけないで、問題を起こせば、結局は山を降ろされるか、グループ内の他の小屋に異動ということになってしまいます。では、山小屋にアルバイトに来る人は、どんなタイプの人たちが多いの? っというと、これははっきりいって色々な人がいますとしかいいようがありません。年齢は20歳前後〜70歳まで様々。男女比でいえば男性のほうが多いですが、女性もたくさん働いています。 昔は大学の山岳部の学生が主力だったらしいのですが、今はワンゲル含めても学生はそれほど多くはありません。意外と登山に精通した人は少なくて、なんとなくって感じで来る人も多いんです。人数的に多いのは、20代前半〜30代半ばくらいまでの男女で、学生やフリーの方、もしくは、一時的に仕事についていない状態の方で、職探し中の合間に、好きな山で働いてみたいという人も多いです。意外と多い看護師さんなんかはこのタイプですね。あと、写真家や画家など、自分で時間をやりくり出来る人たちも結構働いています。そのまま数年続けて働いて小屋番になったり、女性だと厨房の責任者になってその後も数年間~数十年働くことになる方もいます。

 私のように普段は自営で仕事している人もたまにいますけど、どちらかというと珍しい例かな。そういえば休職中の歯医者さんとかも過去にはいましたね。後は、子育ての終わった主婦の方もいますし、元々山好きで、一度山小屋で働いてみたかったと、定年後に働きにこられる方もいます。なことで、ほんと、山小屋で働くひとは年齢も経歴も様々なのですが、共通項としては、基本マイペースで自然好き、旅好きな人が多く、世界中旅してきたという人も多いですね。

 それと、以前その小屋でバイトをしていた人がスポット的に(お盆休みとかに)手伝いに来てくれることも多く、この人達は居候(いそうろう)と呼ばれ、懐かしい小屋の仕事を手伝いながら、山の生活をちょっと楽しんで、リフレッシュして、また下界の仕事に戻っていきます。毎年必ず来る人もいて、山では手に入りにくい食べ物(お刺身とか、パンとか)を担いで来てくれたりするので、嬉しい存在です。

 みなさん、きつい仕事とわかってて、なおかつ、山が好きで来ている人が多いので、一緒に働いているうちに、すぐ仲良くなってしまうと思いますが、大きな所は、最盛期は、バイトも20人を越しますので、なにせ騒がしいです。大人数は苦手、山奥でのんびり働きたいという人は、小さめの小屋(従業員4-5人のところ)を選ぶといいかもしれません。私がここ数年働いている、高天原山荘なんかは、まさにそんな山小屋の典型です。ほんとに忙しいのは10日間程度ですし、毎朝温泉に入れるわ、歩いて10分でフライフィッシングも楽しめますしで、まさに、僕にとっては楽園です。でも、必ずしも、小さな小屋=のんびり仕事ってわけでもなく、バイトの人数が少ないので、なかなか休みも取れず、大きな小屋より忙しかったりする場合もあります。そこらへんは実際に小屋の人や過去のバイトの人に聞いてみないとわからない部分でもあります。

 今日の写真は、黒部源流域で、雪解けの頃から、7月中旬くらいまで、川辺の斜面で採れる『あまな』という植物。さっと茹でて、川を剥いて、おひたしにしてもいいし、天ぷらにしてもおいしい山菜です。山仕事の帰りや、休憩時間の散歩の時とかにとって、従食(従業員の食事)にだしたり、お客さんにだしても喜ばれます。入山したばかりの時は、たとえば、太郎平小屋なんかでは、この『あまな』と『行者ニンニク』はシーズン初期に頻繁に食卓に登場します。荷揚げ前で野菜が不足している時期の貴重なビタミン源でもあります。

2011年1月11日火曜日

第2回 13年間の山小屋生活




 僕が山小屋でバイトを始めるようになったのは11年前、インクノットさんにお世話になったのがきっかけだったとお話しましたけど、ちょっと、これまでに働かせていただいた山小屋を書き出してみることにしました。小屋名の後に、(時期/期間/ロケーション/標高/最盛期の宿泊人数/最盛期の小屋番含むバイト人数)等の情報を書いておきます。

■これまで働いてきた山小屋たち

・2004年 ロッジくろよん(夏/一ヶ月/北アルプス・黒部湖畔/1300m/50人/3人)
・2005年 乗鞍肩の小屋(夏/一ヶ月/北アルプス・乗鞍岳山頂直下/2700m/120人/7人)
・2006年 太郎平小屋 (夏/二ヶ月/北アルプス・太郎平/2300m/300人/22人)
・2007年(春)鳳凰小屋 (GW/10日/南アルプス・地蔵岳直下の樹林帯/2400m/40人/5人)
・2007年(夏) 双六小屋(夏/一ヶ月半/北アルプス・双六岳直下/2300m/250人/20人)
・2008年 (春)鳳凰小屋(GW/10日)
・2008年(夏)太郎平小屋(夏/二ヶ月)
・2009年(春)鳳凰小屋(GW/10日)
・2009年(夏)黒部五郎小舎(夏/一ヶ月/北アルプス・黒部五郎岳直下/2400m/130人/8人)
・2010年(夏)高天ヶ原山荘 (夏/二ヶ月/北アルプス・水晶岳直下/2100m/120人/4人)
・2011年 (春)鳳凰小屋(GW/10日)
・2011年(夏)黒部五郎小舎(夏/一ヶ月/北アルプス・黒部五郎岳直下/2400m/130人/8人)
・2012年(夏) 高天ヶ原山荘 (夏/一ヶ月/北アルプス・水晶岳直下/2100m/60人/4人)
・2013年(夏) 高天ヶ原山荘 (夏/一ヶ月/北アルプス・水晶岳直下/2100m/60人/4人)
・2014年(夏) 高天ヶ原山荘 (夏/一ヶ月/北アルプス・水晶岳直下/2100m/60人/4人)
・2015年(夏) 高天ヶ原山荘 (夏/二ヶ月/北アルプス・水晶岳直下/2100m/60人/4人)
 

  ざっと、こんな感じになります。基本的に、夏に北アルプスの黒部源流域で1ー2ヶ月。GWに南アルプスの鳳凰小屋で、小屋開けの手伝いという感じです。といっても、最近はGWはお休みしていますが。ロケーションや収容規模などは様々で、ま、それだから12年も飽きないで通っているのかもしれません。小屋によって仕事の仕方も様々で、食事のメニューが凝っていて仕込みが大変な小屋、登山道整備がきつ~い小屋、大工仕事の多い小屋等、それぞれ微妙に違いがあります。

  あと、太郎平小屋、双六小屋等、大きな小屋になると、受付や売店専門のバイト、厨房専門のバイトと、仕事を分けている小屋もありますが、小さな小屋では、各人が接客から調理まで、なんでもこなせないといけなくなります。女性は普通、外での力仕事はしないとおもっていただいて結構ですが、ヘリコプターで食糧や物資の荷揚げをした際には、女性でもお米の袋(30キロ程度)を運ばないといけないこともありますので、力仕事に自信のない方は念のため、あらかじめ小屋に電話で確認しておいたほうがいいかもしれません。


■アルプスの携帯事情
  

  山で生活をするに当たって、ところで、携帯電話とか通じるの?っていう心配をされる方って結構、多いんじゃないでしょうか?インクノットの小屋の情報にも携帯の項目があります。 人によっては、定期的に誰かと連絡したいっていう人もおられるでしょうし、通話はだめでもメールくらい出来たほうがいいな~という方も多いかと思います。主婦の方で、一夏だけ家族を残して、山小屋で働かれている方も過去に何人かいましたし。

 これらの小屋のうち、携帯電話が普通に繋がるのはロッジくろよんと乗鞍肩の小屋(くろよんは黒部湖湖畔の小屋ですし、乗鞍は国立の天文観測所等が山頂近くにあるため)で、当時、モバイルパソコンとデータ通信カードを持ち込んでネットに接続していました(まだ、データ定額とかない頃です)。他の小屋は裏山に登るとか場所によっては特定の携帯キャリアのみ繋がるという感じですが、さすがにここ6年通っている北アルプスでも最秘境といわれる高天ヶ原山荘ではまったくの音信不通になってしまいます(笑)。ここらへんの携帯事情は、結構変化していて、例えば、数年前から太郎平小屋では、場所によっては小屋内で、ドコモが通じるようになった代わりに、それまでかろうじて裏山でつながっていたAUが繋がらなりました。なので、これも要確認事項でしょう。総じて、ドコモ有利なので、夏の間だけ、SIMフリー端末と、 格安SIMで乗り切るのもいいかと思います。

 バイト中に下界と連絡をとる必要がある場合は通信事情を山小屋に直接再確認し、衛星電話の有無も聞いておくといいでしょう。ただ、繋がるといっても、そのポイントまで、往復で30分かかるとかだと、なかなか仕事中に抜け出すのは難しいかもです。そうした場合、休み時間や、夜、消灯後にヘッドランプを着けて、電話しに行く人もいます。まだまだ、一部の人気スポット(表銀座や立山周辺等)以外では、アルプスの山奥での連絡手段は小屋間の無線での通信に頼っているのが実情です。あ、そうそう、山で繋がる携帯電話の情報はここに詳しくのっています。)

 しかし、せっかくの山小屋生活。一ヶ月くらい、携帯ともネットとも清く決別するのもいいものです。秘境といっても、ほとんどの小屋で衛星のテレビ放送は見られますから、下界に帰ったら浦島太郎ってこともありません。高天ヶ原山荘はさすがに、発電機もなく、明かりもランプだけという山小屋なので、ラジオで天気予報を聞くくらいしかできませんが。

■十小屋十色
 

  なんだか、アルプスの携帯電波事情の話に脱線してしまいましたが・・これまで、7つの山小屋で働いてみて、嫌な経験というのはほぼ皆無です、実に快適に楽しい時間を過ごせていただいてきたと感謝しています。最初の頃は、趣味の風景写真を撮ることも考えて、基本的に毎年違う山小屋に行くようにしていたのですが(同じ小屋のほうが、やることも毎年同じなので仕事的には楽なのですが・・)ここ6年ほどは、黒部五郎と高天原をいったりきたりで、最近の3年は高天ヶ原に固定。やはり、休み時間に近場でフライフィッシングを楽しめるのと、目の前の雄大な水晶岳、綺麗な森があるので、写真を撮る楽しみがあるのが大きいです。

  ブナの森に囲まれた小屋、朝日/夕日がめちゃめちゃ綺麗な稜線の小屋、温泉に入れる小屋・・・その小屋のロケーションによって愉しみも様々なので、色々な小屋で働いてみるのも楽しいし、同じ小屋に通って、その土地の理解を深めていくというのも、また楽しいものです。

 さて、今回はこれくらいして、次回はもうすこし突っ込んだ実際の山小屋での仕事の話をしてみましょう。

 *今日の写真は今年の夏、高天ヶ原山荘の食堂でのスナップ。はい、見たまんまケーキの写真です。高天ヶ原は毎年、小屋番と中期バイト2人、短期バイト2人の計4人で切り盛りしていているのですが、この年(2010年)はドイツ人女性、ステファニーが忙しい時期(海の日~お盆まで)手伝いに来てくれました。これはスタッフの誕生日に、ステファニーが作ってくれた手作り誕生日ケーキ。ド迫力の大きさです。私は下界では甘い物はほとんど食べないのですが、山ではよく食べます。なにせ、繁盛期は朝3時から消灯まで、ずーっと働きっぱなし、立ちっぱなしで、すごい重労働になりますから、甘い物にパワーをもらわないと! 

2011年1月1日土曜日

第1回 山小屋コラムはじめます(山小屋で働いてみようというみなさんへ!)


  こちらの山小屋便りで、山小屋バイト&生活に関するコラムを担当させていただくことになりました、「はる@」といいます。よろしくお願い致します。

    私が、このコラムを書くのに適任であるのかどうかはわからないのですが、インクノットさんからのご指名ということで、山小屋アルバイトについてあれこれ書いてみようとおもいます。今年、山小屋で働いてみたいんだけど、本格的な登山の経験もないし、初めてなので、やっていけるか不安で・・という方達向けに、自分の経験からアドバイス出来たらいいかなと思っています。

    結論から言ってしまえば、大丈夫、誰でも出来ます!ってことなんですけど、やはり、山域や、山小屋グループによる違いや立地条件によって、同じ働くにしても小屋によって勝手が違う部分があります。そしてなにより、働いている人々も小屋の規模や登山口からの距離などによっても、千差万別なので、自分に合った山小屋を見つけるには、多少の予備知識は必要かとおもいます。まあ、はじめから、ここに行きたい!っていう憧れの場所があれば、素直にそこに行くのがベストなのですが。


 あと、実際のバイトの仕事内容からはずれますが、休暇についてとか暇な時(お客さんの少ない時期や、天候の悪い時等)の過ごし方とか、こんな物持っていくと、さらに山小屋生活が楽しくなるよ!といった、山で楽しく過ごす方法なんかについても書いて行くつもりです。なにせ、ロケーションによっては、携帯も通じない自然の中で(当然ネットからも隔離されます)数週間~数ヶ月過ごすわけで、情報過多な現代人にとっては、サバイバルな状態です(笑)。でも、小屋から一歩外にでれば、とっておきの大自然の中で、ワクワクする事が盛りだくさんです。渓流釣り、きのこ狩り などなど・・・

 普段の登山なら、数日かけて、アルプスを縦走される方も多いと思いますが、やはり足速に通り過ぎるのと、ある場所にまとまった期間滞在するのとでは、当然見える物も違ってきます。たとえば、六月下旬に小屋に入って、二ヶ月過ごすとすると、登った時は北アルプスの奥地だとまだまだ雪がたっぷり残っていて、水源地での雪掘りというハードワークが最初の仕事になるかもしれません。その後、きらめくような夏山に変化。しかし、そろそろ下山という、8月末ともなると、木々も色付き始め、朝晩はすっかり冷え込み、山は秋の気配です。たった二ヶ月の間に、都会なら、早春・夏・晩秋と、三つの季節が凝縮されている、そんな濃い時間を過ごすことになります。

 私自身はといえば、2003年から、毎年インクノットさんにお世話になって、夏に1~2ヶ月、山小屋で働いています。普段は、東京で建築設計事務所を友人と経営してるのですが、この間、本業は友人達にまかせきりとなります。初めてお世話になった時は、まだ独立したてで、仕事もあまりない時期だったし、夏は大好きな山で過ごすか!というのりで応募したのですが、なんだかんだで、13年も続いています。最初は、皆さんと同じく、山小屋・アルバイトで、ネットで検索して、インクノットさんのHPに辿り着いたわけです。その後、仕事のほうは無事、軌道に乗りましたが、夏の山小屋のほうも楽しくてやめれずに現在に至ります。もちろん、今年も夏は山小屋で暮らすつもりです。もはや、バイトというより、自分のライフサイクルの一部になってしまっています。趣味の風景写真やフライフィッシングを楽しめるのも続いている要因でしょう。これからも続けるのか、それとも何か変化があるのかは、自分でもまだわかりません。

 とりあえず、第一回は私の簡単な自己紹介ということで。写真は、2009年の秋、毎年GWに小屋開けの手伝いにいっている南アルプスの鳳凰小屋に遊びにいった時のきのこ狩りの収穫物。この後、オーナーの細田さんが、料理してくれ、帰りに持たせてくれました。夏はいつも北アルプスの黒部川源流部周辺ですが、こと、森の美しさっていう点では、南アルプスもお薦めの山域です。