山小屋での仕事は沢山あるのだけれど、その中でも大変なことの一つに、飯炊きがある。そう、要はご飯を炊くだけのことなんだけど、これが結構大変なことで、何せ、その量が半端ではない。特に太郎平小屋とか、双六小屋クラスの大きな小屋になると、300人分とか一度に炊くわけで、太郎の場合は飯炊き専用の部屋まである。人一人付きっ切りになって、シーズン中、この部屋で、ご飯とお茶をひたすら作り続けるのである。高天ヶ原では、飯炊き番がご飯とお茶と味噌汁を担当している。まあ、この辺の分担の仕方は小屋によって様々なんだけど、専用部屋というのは太郎以外聞いたことがない。その太郎では、今年はネパールから毎年研修にきているビシャールがこの飯番を担当していた。とにかく、一番早く起きて、最後に翌朝分の米をといで寝るのが飯炊きなので、大変な労働である。まあ、最近は無洗米を使ってたりするので、以前よりは楽になったのかな? 飯炊き三年といって、この大変な仕事に三年間耐えることが、小屋番になるための条件と言われていたのだけれど、最近はちょっと変わってきてるみたい。
飯炊きの仕事の何が大変かというと、山小屋というのは直前までお客の数が不確定で、予約の人数にみたなかったり、逆に予約の倍も来てしまったりすることもある。それと、その時の客層やお天気なんかでも食べる量が全然違ったりする。お天気がよければ、みんな寄り道したりして、たっぷり歩いてくるので、当然よく食べるし、高齢の人と若い人の比率や、男女比でもかなり違いがある。もし、お弁当にご飯を使うようだと、弁当に使うご飯の量も日によってまちまちである。で、ここらへんは、常に変動要因なので、飯を炊く量が非常に読みにくいのです。炊きすぎれば余ってしまうし、逆に足りなければ急遽炊かなければいけないので、厨房がばたばたする。また、シーズン最盛期の一ヶ月は、食事も一回では終わらずに、数回、食堂のお客さんを入れ替えるので、それに合わせて炊かないといけないから、そのタイミングも難しい。
ほかにも難しい点があって、それは標高。そう、太郎平や黒部五郎で2400メートル、高天原は2100メートル、乗鞍肩の小屋にいたっては標高2700メートルである。そのため、下界のようなお手軽ガス炊飯器というわけにはいかずに、どこも圧力釜を使用している。で、この釜というのは小屋によって様々な物がつかわれていて、水の量、炊く時間等、微妙にくせがあるのである。なので、飯炊き番というのは、その小屋に長期で入るバイトが担当し、その小屋なりの飯の炊き方に小屋開けから徐々に慣れていき、シーズン最盛期にそなえるのです。僕はいつも短期か中期なので、飯炊きは乗鞍肩の小屋でしかやったことないのですが、なかなか気を使う仕事でした。2700メートルの高地だと、ちょっと間違うとご飯に芯が残ったり、逆にびちゃびちゃになってしまったり。
今日の写真は、高天ヶ原山荘でもう40年間使われている飯炊き用の圧力釜、通称UFO。はじめて太郎平小屋に来た時から噂には聞いていたのだけれど、この形・・たしかに、UFOである。アダムスキー型に似ている(笑)。それはともかく、どういう噂かというと、この釜で炊いたご飯はとにかくおいしい!との噂で、これは、三年前に初めて高天ヶ原でひと夏過ごした時に実感した。今までいたどこの小屋のご飯よりもおいしいのである。実際、この小屋にいると、お客さんに「ここのご飯よく炊けてるね!、おいしいね!」と、褒められることが多い。それに、お客さんばかりでなく、小屋で働く人も毎日食べるものなので、美味しいご飯が炊けるというのは、山小屋では実に大切なことなのだ。
毎日、おいしいご飯と温泉の日々。目の前には、荘厳な水晶岳と美麗な湧水の湿原。高天ヶ原とはいったい誰が名づけたのか、ここはまさに天上の楽園なのである。
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