2011年2月16日水曜日

第5回 山小屋の仕事(1)(山仕事編)

■山小屋の仕事

さて、今回の本題のなのですが、では、具体的に山小屋でどういう仕事をするのか?ということなのですが、 大きく分けると、
1、雪かきや登山道整備等の力仕事
2、厨房での料理、配膳、片付け
3、受付・売店業務
4、小屋の維持管理(清掃、水源メンテナンス等)
5、荷揚げ(ヘリコプターでの荷揚げや歩荷(ボッカ))   という感じに分類にできるでしょうか。4-5は別の機会に説明するとして、3回に分けて、1-3の業務について、書いていきましょう。今回は、1の山での力仕事について書いてみようと思います。

■ 山小屋で最初にやるべきこと

 GWの鳳凰小屋はもとより、中期のバイトが小屋入りする6月末の北アルプスも、標高2000メートル以上は、南斜面以外はまだまだ雪が残っています。そんな小屋に到着して、まずしなくてはいけないこと・・・って、なんだと思いますか? 生きていくのに一番必要なもの・・・そう、飲料水の確保です。水は近くの沢から引いて来るのですが、その沢は・・・そうまだ雪の中。毎年、水を取る場所は決まっているので、お目当ての場所にいき、位置を確認してから、ひたすら雪に縦穴を掘る・・・・。その年の雪の量にもよりますが、3〜5メートルは掘ります。とにかく雪の下の沢の水が見えるようになるまで。そこから、ホースを水平に小屋まで引いていかないと(実際にはゆるい傾斜をつけて)いけないので、沢の下流に向けて、水平に、掘る、掘る、掘る・・・、これで、ホースの通り道が完成し、小屋までホースを伸ばしていくのですが途中も山あり谷あり。ホースに空気が入ってしまったりで、なかなか容易ではありません。

 双六小屋なんかは、裏山にいい湧水があり、あまり苦労せずに飲料水を得られるんですけど、だいたいどの小屋でも、飲料水の確保がまずは、小屋開けの一大イベントです。で、これは、男衆の仕事であります。鳳凰小屋では、小屋の前の広場の洗い場まで、このホースを引っ張っていき、水を出しっぱなしにします、一帯に水の音が響きわたり、やっと、「ああ、今年もシーズン始まったか・・・」っと、初めて、ほっと一息つけるのです。ただこれは、長期や中期のバイトの人の仕事なので、短期のひとが来た時にはすでに、準備はととのっています。でも、水源ってどういうところなのかな?っと、場所を聞いて見にいってみるのもいい経験になりますよ。小屋の生命線なので、決して水源は汚さないように!

■ 登山道整備って?

  とりあえず、水の確保ができると、 女性が小屋の中を整理したりしている間に、男衆は、登山道の整備にでかけます。海の日近くなって、お客さんがたくさんくるようになると、もう外仕事にでる時間はありませんから、この時期に、昨年に伸びた草や木の枝を刈り、木道や梯子などの故障箇所を直したり、川に橋をかけたりして、登山道をすこしでも歩きやすく、安全な状態に整備します。あと大切なのは、登山道のマーキング。こっちが登山道ですよーっと、印をつける仕事です。これはペンキで岩に○をつけたり、石を置いたり、木の枝に赤いテープを巻いたり、その場所によって、どの方向から来ても、歩く方向がわかるように、最適な目印を付けていきます。   外仕事は山小屋の仕事の中でも、一番肉体的にきついですし、チェーンソウや草刈機等も使うので、危険でもあるのですが、僕は実は一番好きな仕事です。背負子に大きな木槌(かけや)やら、鎌やら、必要な道具をくくりつけて、お弁当をもって、作業をしながら、まだ誰も歩いていない登山道を整備して回るのです。お昼にほおばるおにぎりの美味しいことといったら・・・。こういう作業は、小屋が忙しくなる前に済ませてしまわないといけないので、7月半ばくらいまでの仕事となります。で、こうした作業の帰り道に、前に紹介した、あまなや行者ニンニク等の山菜を取りながら、だいたい3時前頃までには小屋に戻ります。戻ったらすぐに夕食の準備です。
    そうそう、今までで、登山道整備で作った一番おおきなものといえば、黒部湖に流れ込む菊沢という沢に作った片側90段くらいある梯子でしょうか。梯子といっても、この長さなので、途中に踊り場も二箇所設たりして、かなり本格的な工作物です。谷なので、当然反対岸にも同じくらいの物を作るわけで、二人で作業して、10日以上かかりました。この年は、せっかくかけた橋を全て鉄砲水で流されて作り直したりと、今思うと、ありえないくらいハードな一夏でした。山小屋生活1年目のことでしたので、わけもわからず働いていいたんですねw


 今回の写真は、子どもの写真をアップ。2010年に高天原山荘にいた時に小屋に遊びにきた、水晶小屋の小屋番夫妻のお子様です。 登山というと、歩いてるのは中高年が多いので、子どもがよちよち歩いていると凄い違和感があります。でも、次はこの子が次代の水晶小屋を継ぐのかな? このあと、背負子に乗せられ、水晶小屋に戻っていきました。

#追伸

そうそう、この伊藤正一さんの長男夫妻は、現在は、三俣山荘の小屋番をしています。たまには他の小屋に遊びにいかないとな。黒部五郎小舎もご無沙汰してしまって・・・今年は、あちこち挨拶回りにいこうかな。

2011年2月1日火曜日

第4回 中期バイトの勧め



■ 山の診療所

 ところで、みなさん、山にも病院というか、診療所があるって、知っていますでしょうか? 昭文社の山地図なんかにも、診療所のある山小屋には、その旨記載されてますけど、泊まっているお客さんでも、知らない方、結構多いんです。やっている期間はたいていは、以前の海の日(7月20日)頃からお盆過ぎまでと、最繁期だけですが。たとえば、黒部源流部だと、太郎平小屋には、日本医大の診療所が、双六小屋には、富山大学医学部、三俣山荘は、岡山大学と香川大学の医学部が共同で診療所を開設しています。縦走の起点となる、大きめの小屋に設置されていることが多いようです。

 どこの診療所も、各医科大学の山岳部OBを中心に学生や看護師の方々が交代で山に登って来てくれるのですが、最近は、どこの大学でも山岳部は人が集まらず・・・運営には苦労されているようです。実際、診療所に誰もいない期間も結構あって、ちょっと問題になっています。あくまでボランティアでお願いしていることなので、来てくれる人がいなければどうしようもないのですが・・・   利用される方は、軽い怪我(捻挫のテーピングや虫刺され等)で利用される場合が多いのですが、高山病で熱が下がらず、診療所に泊まっていく方もいます(重症の場合はヘリコプターを呼んで、即入院ですが、医師がいないと、ここらへんの判断が難しいのですよね)。山小屋の従業員が、この診療所にお世話になることも多いのですが、こういった診療所のある大きな小屋でないかぎりは、山小屋には薬関係といっても、薬箱一個あるだけだったりするので、常備薬がある場合はもちろん、抗生物質と風邪薬くらいはもっていったほうが無難です。手を包丁で切ったりすると、なにせ、毎日の洗物の量が半端じゃないので、なかなか傷口がふさがらないで化膿してしまったり、朝晩の寒さで、うっかり風邪をひいてしまうこともあるので。





■山小屋での仕事



  さて、本題の山小屋バイトの話に戻りましょう。実際にバイトって、どんな仕事をしるんでしょうか? 小屋にもよるのですが、 たとえば、ここ6年通っている高天ヶ原山荘での、一日のスケジュールを例としてあげると、



3:30 起床

3:40 〜4:20 朝食準備

4:20〜4:50 配膳

5:00〜 朝食

5:30〜 食器下げ



5:30〜 6:00 食器洗い

6:15〜6:40 スタッフ食事準備

6:50 スタッフ朝食

7:15~8:00  休憩 8:00〜8:15 ミーティング

8:15〜10:00 スタッフ全員にて、清掃

10:00〜10:30 休憩(お茶)

11:00〜13:00 食堂・売店の切り盛り

13:00〜15:00 休憩

15:00〜16:30 夕食準備

16:30〜16:50  配膳

17:00〜18:15 夕食(2回分、盛り付け、配膳の繰り返し)

18:15〜19:00 食器洗い

19:00〜19:30 スタッフ夕食

19:45解散

20:00 消灯、就寝


 7月下旬〜お盆過ぎまでの最繁期の一日のスケジュールは、ざっと、こんな感じです。休憩は日によって交代で、午後に1~2時間です。休憩時間は散歩に行ったり、本を読んだり、人それぞれですけど、たいていは、忙しい時は、早朝から働きっぱなしなので、昼寝してしまうことが多いですかね、なにせ朝早いので。じゃないと連日の激務で体がもちません。でも、ずっとこのスケジュールというわけではなくて、中期以上の期間のバイトであれば、ローテーションを組んで、何日かごとに少し長めの休憩をもらえたり、朝も交代で遅く起きてきたりできる仕組みになっています。でも、前回お話したように、小さい小屋で、ぎりぎりの人数でやっているところだと、あまり休めないところもあるかも。とはいっても登山客の少ない時期は、一日遊んでるようなものなのですがw

■ 中期バイトの勧め
  いかがでしょう? 自由になる時間って、思ったより少なくないですか? なので、山でゆっくり過ごしたいっていう方は、時間が取れれば、中期以上でバイトに入ったほうがいいと思います。短期の1ヶ月というのは、いちばん忙しいときに、だーーっと働いて、はい終わりっていう感じですので(それでも、いい経験にはなりますが)、せっかく山でのんびり過ごせる良い機会なのに、勿体無いと思うんですよね。山小屋は、ちょっと登山シーズンはずれれば、お客さんも一桁なんてことも。昼間はカメラを持ってのんびりお散歩か、川でイワナ釣りでもっていうのが、バイトにとっては一番幸せな時間なのです。  


■山小屋の電気


 今日の写真は、温泉とランプの宿で有名な、高天原山荘の灯油のランプ。ランプの宿といっても、さすがに、夜は作業がしずらいので、太陽電池で充電した無線用の蓄電池を利用して、厨房だけは一個の裸電球で照明できるようにしてあったのですが、数年前に、常連のお爺さん(定年前は中学の理科の先生だった方)が、LED電球を厨房3つ付けてくれて、さらに、明るく作業しやすくなりました。   高天ヶ原は一切発電機をまわさない特殊な小屋ですが、普通はどこの小屋も灯油で動かす大型の発電機を持っていて、朝、食事の準備のために、起床後すぐ発電機をまわし、お客さんが出発していなくなるくらいまでか、掃除に掃除機を使う場合は掃除が終わるまでコンセントが使えます。発電機は、昼間は基本的に止めておいて、夕方3時頃に再度つけて、消灯の九時までは、回しっぱなしといった感じでしょうか。なので、携帯などを充電したい場合は、基本、発電機が動いている間しかできませんので、ご注意あれ。でも、たいていの小屋は、無線機器等のバックアップ用として、バッテリーに充電もしているので、どうしてもというときは、小屋番さんにこっそり聞いてみてください。以下の記事も参考に・・・




山小屋と電子機器