2011年4月11日月曜日

第8回 山小屋の仕事(3)(受付編)


■ 行く山小屋は決まりましたか?

 山小屋のバイトの募集は、早いところは年明けくらいから始まります。たいてい小屋開けはGWですから、それまでには、長期のアルバイトは決めておかないと小屋としても困ってしまいます。中期のバイトも、6月下旬には小屋入りしてもらって、最繁期までに仕事に慣れてもらわないといけません。短期のバイトは結構直前、場合によってはシーズン中も募集していることもあります。通常は、まず、電話でコンタクトをすると、登山や山小屋の仕事の経験の有無、働きたい期間等を聞かれ、履歴書を送付。採用だと、その旨連絡が入り、その後、契約書が送られてくるので、サイン&捺印して、返送。これで、正式に採用となります。入山までは、持っていく物の準備するのと、前にも書いたけれど、今まで登山を全くしたことないっていう人は、近場の山でちょっと足慣らししておいたほうがいいかもしれません。7月から山小屋に行くなら、5-6月と月に1-2回くらいは歩いておいたほうがいいかな、靴が合っているかのチェックもできるし。だいたい、アルプスの稜線ちかくの小屋だと、登山口から、1000メートルくらいの標高を登ることになるので、東京近辺だったら、奥多摩か、丹沢あたりの日帰り登山で鍛えとけば問題ありません。

■ 受付の仕事とは?

 登山道整備の仕事、厨房の仕事と書いてきたので、もう一つ、受付業務についても簡単に説明しておきます。といっても、初めて行く小屋で受付の仕事をすることはまずないと思いますが、小さい小屋だと、人手が足りないときに、ちょこちょこと、しなければいけなくなる時もあるかとおもいます。でも、山小屋の受付っていうのは結構、デリケートな面もあるので、ある程度慣れた人でないと、何かとトラブルの元になることがあります。

 業務的には、来たお客さんに、宿泊カードを記入してもらい、食事の内容や翌日の弁当の有無なんか聞いて、宿泊料をいただきます。それから、寝る場所を決めてあげて、そこまで案内。その際に、トイレや乾燥室等の諸施設の場所や利用の仕方なんかを説明します。食事や弁当の数は常に変化しますので、間違いがないように随時厨房に連絡を入れます。最後に、すべてを集計し、帳簿に記入します。これを、併設された売店をさばきながらするので、最繁期はトイレにもいけないくらい忙しくなります。お客も様々で、難しい注文をする人もいますし、ツアーの添乗員さんとかだと、いわばお得意さんになるので、寝る場所などは、特別に配慮しないといけません。それでも、お客さんの少ない時は適当に世間話もできますし、いいのですが、最盛期に布団2枚に3人寝てください・・とか、さらには、布団1枚に2人でお願いしますとかいう、厳しい混雑状況になってくると、大きな小屋では、受付前に、大行列ができますし、結構なプレッシャーが、かかります(笑)

 こういう状況だと、お客さんもなかなか小屋に入れず、イライラしてきますし、従業員の側も応対にいっぱいいっぱいで、ちょっとしたことで、言葉や気遣いが足りずに、お客さんを怒らせてしまうこともあります。よくあるのは、予約を大幅に上まるお客さんが来た時。最初、1人に布団1枚で案内していたのが、場所が足りなくなり、途中から2枚に3人で寝てもらうように案内を変えたりすると 「あっちの部屋では1人に1枚に布団があるのに、待遇が違うじゃないか!」とか、「3人で2つの毛布って、真ん中の人はどうやって布団かけるんだよ!」とか、ごもっともなクレームをつけられてしまいます(笑)。でも、高天ヶ原くらい山奥になるとw さすがに皆さんわかっている人しかこないので、何があっても、皆さんニコニコしています。いいお客様ばかりで、大変助かっていますw

 なので、予約数と曜日、時期、お天気等から、今日はたくさん来そうだなと思ったら、最初から、タイトに押し込んでしまうとか、一番多い男性の単独のお客さんは、大部屋にぎっしり詰め込んでしまうとか、部屋割りのコツはいくつかあるのですけど、これも、ある程度の慣れが必要となります。あと、登山道の状況や、次の目的地までの所用時間等はよく聞かれるので、周辺をある程度歩いたことのある人でないと、的確にアドバイスできないばかりか、危険でもあります。特に、沢添いのルートはお天気に左右されるので、注意が必要です。ここら辺は、黒部源流部では、小屋間の無線で、常時連絡を取り合って、リアルタイムに登山客に情報を提供できるシステムが出来上がっています。

 とはいえ、厨房の仕事と違って、実際に様々なお客さんと接し、話もできますので、私のように、話好きなタイプの人は、楽しく働けるポジションだと思います。まあ、たまに嫌な目にもあうこともあるけれど、その何十倍も楽しいこと、嬉しいことがありますから。私の場合は、黒部源流域で、あちこちの小屋で働いているので、お客さんが覚えていてくれて、「あれ?前に、あそこの小屋にいましたよね?」と、聞かれることも結構あります。意外とみなさん、覚えていてくれんですよね。こちらは、大勢のお客さんの相手をするので、余程、特徴のあるお客さんじゃないと、顔まで記憶に残らないのですが、普通のお客さんは、山小屋に泊まる、しかも北アルプスの最深部にっていうのは、ある意味特別なことなので、こちらのことをじっくり観察しています(笑) なので、身振り、言動には常に気をつかわないといけません。

 そういえば、太郎平小屋で、キャンプ場の管理をしていたときに、登山口に駐車した車にサイフを忘れてきてしまった若いご夫婦がいて、せっかく登ってきたのに受け付け出来ないとも言えないし・・・、結局、下山してからの代金を振込んでもらうことにして、滞在してもらったことがありました。後日、代金の振り込みはもちろんのこと、箱詰めのクッキーまでお礼にということで送っていただいたりしました。でも、私が下山しているときに届いたので、山小屋に戻った時には、全て食べられてしまっていました(笑)

■ 今日の写真


 今日の写真は、高天ヶ原のトンボ。なんでも、ここらへんは、珍しいトンボが生息しているらしく、マニアにはたまらない所らしいです。虫好きの人って、山にも結構いるんですよね。南アルプスの鳳凰小屋のご主人、細田さんも、大の虫マニア。なんでも、自分で発見した新種の昆虫がいくつもあって、ホソダなんとかっていう学名までついているらしい。後世に名を残したいなら、虫屋になるのが一番の早道かもしれません(笑)

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