2011年10月10日月曜日

第16回 黒部五郎の思い出 その3



■黒部五郎小舎

 黒部五郎小舎は、双六小屋と太郎平小屋の長い尾根道の途中の谷間にぽつりとたたずんでいる。この間、昭文社の山と高原の地図のコースタイムで、約十時間である、縦走の重い荷物を背負って、尾根道とはいえアップダウンの激しいこの登山道に、登山者の安全のためにも、位置的になくてはならない小屋である。登山口からもやはり、十時間前後かかるので、体調を壊して、または、怪我をして歩けなくなり、富山県警の救助ヘリで、この小屋から搬送される方も当然のように毎年数人でてきます。無理なツアー登山で、ダウンしてしまう高齢の方もいらっしゃって、山くらい、のんびり歩こうよと言いたくなる。




■山小屋で出会った人達、その後

 今回、話しは黒部のことではないのだが・・・。これまでに、夏に山小屋でご一緒させていただいた方々はたくさんいるのだけれど、この秋は、そのうち二人を雑誌上で見た、あるいは見ることになる。

 「見た」という雑誌の一つは、すでに既刊の「フィールドライフ」というエイ出版が登山用品店などで、無料で配っているアウトドア系の季刊誌である。先日、高田馬場のカモシカスポーツに買い物に行った際に、ご自由にお持ちくださいと置かれていた。はじめて持ち帰ってパラパラとめくっていたところ、黒部源流部のフライフィッシングの紀行文が載っていた。へ~~誰か知っている人でもでているかなと、記事を見てみると、旅の主は二名。一人はアウトドア系のライターさんで、もう一人は・・・サングラスをかけた写真だったので、パッと見わからなかったのだけど、その松山氏なる人物の経歴をみて、ああ!っと思い出した。

 そう、3年前の夏、僕が太郎平小屋で、一夏、受付に座っていたときに、薬師沢小屋にシーズン初めからバイトで入っていた松山君であった。その夏、一日休暇で、薬師沢小屋に遊びに行った時に、雨の中、午後の釣りに付き合ってもらった、釣りキチである(笑)。もともと、大学のアメフト部のクオーターバックとして活躍しながら、研究室の博士課程で、文化人類学のフィールドワークを続けていたという、文武両道な人物なのだが、怪我で大好きなアメフトができなくなり、新たに、得た世界がフライフィッシングだったらしい、その夜は、熱い思いを一生懸命に語ってくれた。もう、フライを初めて15年位になっていた僕は、自分がフライを始めたばかりの頃、いや、それ以上の思いで、この釣りに夢中になっているなー、彼、と、その時に感じていた。

 そして、紀行文を読み進んでみると、現在はティムコという、釣具のメーカーに勤務しているらしい。僕も昔からフライのフックはティムコ(TIEMCO)製を使っている。しかし、ということは、彼は、フライフィッシングの世界で生きて行く決心をしたってことなんだな。ふむふむ、それも素晴らしい人生だしね また、黒部で彼と一緖に釣ることもあるだろう。

■山と渓谷デビュー

 で、「これから見る」のほうは誰かというと、毎年GWに小屋開けの手伝いに行く、南アルプスの鳳凰小屋。僕はGWだけしか行かないんだけど、この4年間、春から秋にかけて小屋番としてフルシーズン働いているのが、宇佐美君。初めて会ったのは彼がGWにも来るようになった、3年前だっけかな。神奈川出身で、高校では陸上選手として活躍。東京の写真専門学校をでて、スタジオで修行後、なぜか鳳凰小屋に迷いこんできた。しかし、この四年間で小屋の仕事をしながら、写真を撮りため、ついに、雑誌「山と渓谷」の11月号(10/15発売)で、写真家として、グラビアデビューするそうです、僕も書店で見れるのを楽しみにしている。僕自身、この連休も鳳凰行く予定が、ちと仕事でお流れになったので・・紅葉は終わってるっぽいけど、今週末にワインでも持って、お祝い兼ねて遊びに行ってくるかな。

 偶然、山の世界にふらふらっと、やって来た彼らも、そこで、何かを感じ、考え、やがては、それぞれの世界へ。しかし、旅立っていっても、彼らにとって、山小屋は第二の故郷になるのだろう。自然とは、山とは、なんという豊かさと、人の人生さえも変えてしまう魔力を持ちあわせているのかと思う。

 

2011年10月3日月曜日

第15回 黒部五郎の思い出 その2


 

一昨年に続き、今年も五郎では、コバイケイソウがよく咲いた。高天原もコバイケイソウは結構多いけど、五郎程群れをなしてこの花が咲く場所を他に知らない。毎年、7月末になると、あれ、今年も咲いてきたな、と思っていて、でも、小屋の仕事でバタバタしているうちに、気がつくと満開っていうパターン。「うわ!いつの間に!」っていう感じで小屋の周り一面が、お花畑になる。

 でも、この花が咲くと、花の大きさや形もあってか、僕には湿地帯一面に、無数の十字架が突如、出現したような錯覚を覚えてしまう。今年は、東北の地震のこともあり、被災地で亡くなられた方たちが、旅立ちの前に、今しばらく、この楽園のような土地で、この世を楽しんでいるような、不謹慎だと思いつつも、そんなことを思ってしまった。

 カールの右壁の群生も見事です。そちらは、8月初めくらいが見頃かな。

2011年9月30日金曜日

第14回 黒部五郎の思い出 その1



こんにちは、お久しぶりです、はる@です。怪我していた左足の踵もやっと完治しまして、来週末は紅葉の鳳凰小屋~甲斐駒ケ岳/仙丈ヶ岳を縦走してきます。ご報告は月末くらいになりますが、それまで、今年の夏の黒部五郎小舎での写真でもぼちぼちアップしてみようと思っています。

 今日の写真は、黒部五郎小舎の厨房。ちょっと暗い(写真はだいぶ明るく修正してあります)のですけど、広くて使いやすい厨房です。今年はどんよりしたお天気が多く、昼間でもヘッドランプを灯しながら作業してたりしてました。ところ狭しと鍋やらバットやら・・・ここの小屋は今まで働いた中でも特に手作りの料理にこだわっているいるので、ごぼうの天ぷらのささがきをするにも、数時間かかったり、煮物も夕食用、朝食用、お弁当用にそれぞれ数種類あったりと、厨房の前室にはそれらの鍋がところ狭しと並べられています。

 なにせ、厨房で過ごす時間が山小屋では一番長いので、まあ、くだらない話題で盛り上がりつつ、ここで、一日の大半を過ごします。なかなか小屋の厨房の中って、一般の人は見る機会がないとおもいますが、こんな感じです(笑)

 カメラはニコンのD700で、レンズは16-35mm VRと60mm Macroを使っています。

2011年9月16日金曜日

第13回 今年の北アルプス

 こんにちは、お久しぶりのはる@です。大変ご無沙汰してしまってすいません。先月末には黒部五郎から戻ってきていたのですが、仕事が思いっきりテンパってしまっていて、バタバタしている間に、三週間も経ってしまいました。やっと少し落ち着いてきたので、そろそろ、コラムを再開しようと思います。そんななか、この週末からの連休、明日から八ヶ岳、来週末は北アルプスの太郎平小屋に挨拶がてら、薬師沢小屋ー高天原山荘ー双六小屋と廻ってくる予定で、テントも新調して準備していたのに・・

 実は、一昨日、自転車で落車して、左足を思いっきり捻挫してしまいました・・・現在、家や自宅の仕事場をケンケンとハイハイで這いずりまわっている悲惨な状態に。。。さすがに今日はタクシー呼んで病院に行ってくるつもりですが、この痛みだと、二週間は、松葉杖のお世話になりそうです(涙)。昨年も、一昨年もこの時期は足の怪我で歩けてなくって・・・今年もか。といっても台風接近で、お天気も今ひとつみたいですけど。意外と9月はお天気がはっきりしないんですよね。せめて、10月の頭の甲斐駒ケ岳&鳳凰小屋の紅葉までに歩けるようになってくれればいいのですが。

 とまあ、個人的な話はともかく、今年の夏は、二年ぶりの黒部五郎小舎だったのですが、前回は、男性5人に女性2人という構成だったのが、昨年あたりから、意図してかどうかは定かではないですが、女性を多めにとるようになったらしく、男性4人に女性4人と半々の構成でした。笑い声の絶えない、楽しい仕事環境でした。支配人さんはじめ、この小屋はバイト常連の方も多く、最初からリラックスムードで仕事。あっという間の40日間でした。

■ 今年の北アルプスのお天気は今一

 しかし、今年の北アルプスは、雨・雨・雨・・・でした。7月13日にまずは麓のわさび平小屋に一泊、次の日に双六小屋に一泊(途中、鏡平で休憩)。三日目に黒部五郎小舎に到着といつもの行程。この間、きつい上り&猛暑でみんなばてばてでした。それから一週間位はお天気もよく、お客さんもまだ少なめなので、男性バイト衆で、弁当もって、一日草刈り・・とかしてたのですが、23日に他のバイトの助成二人がやって来た頃から、だんだんと毎日、雨模様に。結局、最後の下山日の8月23日も大雨の中、双六小屋からの下山となってしまいました。
 ただ、お天気もそれほど大きく崩れることはなく、なぜか、夜は星空が覗き、朝方はまだ晴れているのですが、朝も八時を回る頃には岐阜県側から、ガスがもくもくと・・そして十時頃には雨がパラパラ、そして、しとしとっていう毎日でした。ほんとにすかっと一日晴れたのは、ほんの数日。一応、40日滞在。お休みは、短期バイト4人が火曜日~金曜日に週に一回ずつ交代でとるかたちで、計4日間いただいたんですが、黒部川本流に岩魚釣りに行ったときこそ一日晴れていたものの、あとは、カッパを着ての周辺散策しかできませんでした。そうそう、一昨年は、鉄砲水でもあったのか、ゴロー沢は荒れ放題って感じだったのが、だいぶ回復してきていて、結構上流部でも、魚影が走っていました。いつもどおり、五匹釣って竿をたたんで、沢をカールまでつめて、登山道で小屋に戻りました。

 五郎はもちろんですが、双六小屋でも、みなさんには大変お世話になりました。また素晴らしい夏を過ごすことができました!


■ お客さんは平年並?

 じゃ、お客さんが少なくて、暇だったのかというと、意外とそうでもなく、爆発的な人数には一日もならなかったものの、毎日、平均して、そこそこの人数きたので、トータルでは例年とかわらないくらいでしょう。忙しい時期も、富山のグリーンパトロールの人達がちょうど滞在して手伝ってくれたりして、それほどバタバタせずに済みました。でも、ここ3-4年の傾向なんですけど、小屋泊まりのお客さんの数は横ばいか少し減少傾向なんですけど、テント場は大盛況なんですよね。まあ、若い人は前からテントだけど、やはりブームなのか、だいぶ数が増えて来ています。シーズンのうち数日は、小屋よりもテント泊の人のほうが多い日があるくらいです。そういえば、ここ10年くらいで、テントやザックも軽いものがいっぱいでてきて、クッカーもチタンですし、テント泊でも、大荷物背負ってという感じでもないですからね。

 そうそう、山でのバイトは小屋での仕事が一般的ですけど、先程話しに出た、グリーンパトロール(通称:グリパト)というバイトもあって、これは、富山県の営林署が管轄している仕事で、一ヶ月間、ある地域を、小屋に泊めてもらいながら巡回して、自然保護の観点から、登山者にアドバイスしたり、時には注意したりする仕事です。制服があって、赤いシャツにモンベルの赤いカッパを着ていて、腕には営林署の腕章をしているので、出会えばすぐわかると思います。一箇所に滞在するより、とにかく歩きまわりたい人にはこれもいいバイトかもしれません。ただ、二人一組で廻るので、お互いの相性の問題があり、そこらへん大丈夫な人じゃないときついかもしれません。毎日、朝から晩まで顔を付き合わせているので、やはり、揉め事もあるようです。巡回する地域としては、室堂周辺、後立山、黒部周辺といくつか選択肢があるようです。たしか、乗鞍にいたときも同じような人達がいたので、長野にも同じような制度があるはず。

 さてさて、今日はこれから病院にいかないといけないので、ここまでにしておきます。まだ写真も整理中なので、いくつか写真をピックアップして、黒部五郎での生活についてこれから順次書いていく予定です。うーん、ほんとは来週の高天原再訪記書く予定にしてたんだけど、足がこれでは・・・

2011年7月11日月曜日

第12回 大きな小屋・小さな小屋



   この写真は2010年の高天原山荘の写真。しかも、お客さんは見る機会のない裏側のファザード。裏にあるのは、いわゆる「こえだめ」と焼却炉。いわば山小屋での汚れ仕事の場なので、お客さんは入れないようになっています。一転、正面側はデッキになっていて、お客さんの憩いの場。今回は、この高天原での生活をちょっと振り返ってみようかと思います。

 もともとこの小屋は大東鉱山という会社のタングステンの採掘&精製のための作業小屋だったのですが、50年も前にこんな山奥でタングステンを掘っていたなんってちょっと驚きです。こんな山奥にタングステンがあるなんて、誰が見つけたのやら。もともと太郎平も、金の採掘調査のために開かれたらしいし(結局、金はみつからなかったらしいですが)ので、そういう山師っていわれるような人たちが、北アルプスを歩きまわっていたのかもしれません。どんな人達だったのでしょうかね、非常に興味あります。その頃の黒部源流域にどんな人間が出入りしていたのかは、三俣山荘のオーナーである、伊藤正一さんの、「黒部の山賊」という名著に詳しく書かれています。以前は、三俣グループの小屋でしか手に入らなかったのですが、数年前に山と渓谷社から、出版され、アマゾンでも手に入るようになったので、ぜひ読んでみてください。

  高天原山荘は、厨房と従業員部屋の部分は増築してありますが、ほぼ50年前当時のままで、軽量鉄骨造の建物で、昔の姿のまま、立ち続けています。梁なんかはトラス構造になっているのですが、こういった部材を、まだヘリの無い時代に、大東新道を担いで運んだのでしょうか、トラスは現場で溶接したのですかね。どちらにしろ、大変なことです。50年間ほったらかしで、しかも、豪雪地帯にあるので、基礎も柱も歪み放題、おまけにここら辺は湿地帯で地盤がよくないですからね。その影響で、屋根が波打っているのが写真でもわかると思います。でも、この歪みっぷりが、逆に味となっているのです。お客さんも、「おお・・これは凄い・・噂通りだw・・」と満足して写真を撮って帰っていきます(笑)。改修であまり小奇麗になってしまうのも、逆にちょっと残念な気もします(笑)。

#追伸

*高天ヶ原山荘は2013年までに母屋の改修、厨房/従業員部屋の新築、バイオトイレの新設を終えて、新しく蘇りました。バックヤードにも大きなウッドデッキをつくって、お客さんも洗濯物を乾かしたりできるようになっています。厨房も広く綺麗になり、働く者にとっても、とても快適な小屋になりました。 >

■ 大きな小屋、小さな小屋

   高天ヶ原は、北アルプスの最深部とか、秘湯中の秘湯とか、登山口から最も遠い小屋なんて言われかたをしますけど、けっして、地理的にどん詰まりのような場所に位置しているわけではなく、意外と、交通の要だったりします。高天ヶ原を中心に、三俣山荘の岩苔乗越への道、薬師沢小屋へは、大東新道と雲の平経由の二本の道があるし、読売新道へと駆け上がる、温泉沢の登山道、今は廃道になってしまいましたが、奥黒部ヒュッテまで通っていた、旧高天原新道(今は竜晶池から先はわずかに痕跡があるだけ)もあり。小屋開け後は、これらの登山道整備に追われる日々となります。温泉の整備、脱衣場の組み立てや、岩苔小谷の橋架けもあり、これを小屋番さんと二人でこなさないといけないので、最初の2週間程は大忙しです。2010年は6月末に小屋に入ったのですが、最初のお客さんが来たのは7月の10日過ぎで、単独行の男性一人でした。それまでは、ずっと、昼間は外仕事、当時の小屋番の小池夫妻と三人で夕食後、九時頃まで毎晩晩酌しながら、いろいろな話を聞かせていただきました。今は小池夫妻も山小屋の仕事は引退されて、太郎平小屋の厨房を仕切っていた高橋さんが小屋番をしております。

   その後は、ぽつぽつと、お客さんも増え始めて、一番多かったのは、8月3日で、120人くらいだったかな、外仕事が終わってしまえば、あとはルーチンワーク。起床→朝食準備→清掃→お風呂(もち白濁硫黄系泉質の露天風呂!)→夕食の天ぷら用のあざみ取り→昼飯→売店・受付→夕飯準備→片付け→従業員夕食→翌日の準備→就寝といった繰り返しの毎日です。まあ、バイト同士でローテーションを組んで、山へ行ったりもできますけど、小さな小屋でバイトも少ないので、あまり休暇の融通は利かないかな?大きな小屋だと、チームに分けてローテーションできるので、休憩は比較的取りやすいのだけれど。でも、ここ6年ほど、小さな小屋で働いてみて、自分にはやはりこじんまりした小屋の方が向いてるなーと思います。なんといっても時間がゆっくり流れていますし、お客さんとの垣根が無いので、話もはずみますし、仕事してても楽しいですね。

 赤い屋根の小さな小屋、目の前にはお花一杯の大湿原にぽっかり浮かぶ水晶岳。夏の青い空に入道雲。まだ、雪解け水のような、冷たい清流に遊ぶイワナ達。ああ、夢のような日々(笑)

*大きな小屋には、写真家やら、雑誌、テレビ関係者など、山に関係する様々な人達がやってくるので、ありとあらゆる山に関する情報が集まりますので、それはそれで、楽しかったりするのですけどね。

2011年6月29日水曜日

第11回 山小屋への携行品(遊び道具編)


 今日の写真は、2009年に、黒部五郎小舎にいたときに、黒部川本流で釣った岩魚の写真です。小屋から、黒部川本流までは、特に危ないところもなく、ゴロー沢を下っていって、約一時間程度。ゴロー沢は数年前に鉄砲水があったとかで、流木が多くちょっと荒れた感じでしたけど、本流にぶつかる、ちょっと手前から魚影もちらほら見られました。


 黒部源流部での釣りというと、薬師沢小屋へ泊まって、目の前を流れる本流か、薬師沢でっていうのが、一般的です。フライロッドをザックの脇にさして登って来る釣り人の数はそれほどは多くはないですが、魚はすこしスレ気味ですかね。まあ、それでも、大物がばしばし釣れてしまうのが、黒部源流のすごいところなのですが。



 それに比べると、黒部五郎小舎近辺の黒部川源流部や、高天原山荘の近くを流れる岩苔小谷は、釣り人もまずこないですし、川を独り占めできます。魚影も濃いし、魚もスレていません。天気のいい日に、川の音につつまれながら、清流で過ごす一日は、まさに「日本の夏休み!」という感じで至福の時間です。黒部源流でイワナ釣りっていうと、なんかとても難しい感じがするかもしれませんが、これだけ魚が豊富で釣りやすい川も全国探してもまずないとおもいますので、興味がある方は、ぜひチャレンジしてみるといいですよ。問題は、たどり着ける脚力だけです。ただし、キャッチ&リリースは必ず守ってくださいね。ずっと、フライロッドを持って行っていたのですけど、昨年からよりシンプルにということで、テンカラ竿にしました。


  僕の場合、持っていく毛鉤はアント(蟻)と、ビートル(コガネムシ)、アダムスのパラシュートと、イブニングライズ用のホワイトウルフの4種類だけ。これで、十分釣りになります。サイズは14-16番でOKです。恐らく、これだけの高山で、小屋で働きながらフライフィッシングを楽しめるのは、黒部源流域だけじゃないかな?これも、僕が黒部から離れられない大きな理由の一つです。

 ■ 山小屋に持って行く物(遊び道具編)

  
   山小屋で一夏過ごす場合、たまの休暇や休み時間に何をするかというのは、人様々なのですが最繁期に近づいてきて忙しくなってくると、疲れもたまってきて、結局、休み時間もお昼寝(笑)な、感じになっちゃうのですが、僕はせっかく山に来てるのに、寝て過ごすのはもったいないなあ~っと思ってしまうタイプで、そのために、時間の空いた時用に遊び道具をいくつか持っていっています。それはなにかというと・・・
 

*釣り道具

   前述のように、黒部源流域は、格好の岩魚釣り場なので、フライロッドを持って行きます。フライの竿というのは、通常、持ち運びのために、2-3分割できるように作られているのですが、それでもそれなりの長さになります。薬師沢小屋のように、目の前が川ならそれでもいいのですが、川まで少し歩かないといけないような場合、サブザックに釣り道具一式と、お弁当を入れて、気軽に山道や沢を歩くのに、仕舞寸法の短くなるパックロッドやテンカラ竿が便利です。特にテンカラだと、持ち物はロッドとチペット(ハリス)、フロータント(ドライとジェル)、クリップ、フライボックスくらいでしょうか。ウエアは特に持っていかず、登山用タイツに短パン、足元は小屋においてある沢靴ですませてしまいます。昨年の装備はこんな感じです。

今年の持ち物 釣具編

 *カメラ

  釣りや、登山にはいけない、ちょっとした休憩時間なんかは、もっぱらカメラをぶら下げて散歩をしています。もちろん、山も被写体ですけど、登山道脇の植物やら、よくよく観察すると、様々な被写体が見つかって、撮っていてとても楽しいです。だいたい一夏で5百枚位撮りためておいて、山から降りてから、じっくり整理。以前は山の写真のブログを運営してましたが、今はこちらにアップするくらいになってしまいました。ちょっと撮る写真の方向性も変わってしまったのかなあ。レンズは何本も持っていくわけにもいかないので、広角ズームと、マクロレンズ、望遠ズームの3本が基本。人を撮るのが好きな人は、大きな一眼よりも、コンパクトなタイプで写りに定評があるものを常にポケットにいれておいたほうが、シャッターチャンスを逃さないでいいかと思います。そうそう、頻繁に散歩をしてれば、雷鳥に出会う可能性もアップ。とくに、霧がでているときは、警戒心が薄れるのか、よく登山道に出てきます。しかし、今まではずっと、デジタルの一眼レフを持って行っていたのですが、2013年の高天原では、ニコンのミラーレス機とレンズ二本だけを持っていきました。これだと、機材の重量が一キロ程度で済みます。前述の一眼一式だと3キロ以上になるので、これも重量が3分の一程度で済みます。。でも、画質重視の場合はやはり、一眼をもっていきますね。さらに2014年は、富士フィルムのミラーレス一眼に、撮影機材はこんな感じになってます。


撮影機材一新

*パソコン(iPad)

 前は、ノートパソコン(パナソニックのレッツノートRシリーズ)を持って行っていたのですが、べつに本格的にパソコンで作業しようというわけではなく、お休みだけど、外は雨・・・なんっていう時に音楽を聞いたり、映画を見たり、本や漫画をみたり、日記や思いついた仕事上のアイディアなんかを書き留めたりという使い方です。なので、最近はノートパソコンの代わりにタブレット端末を持っていくようになり、重量もノートパソコンの3分の一以下と軽量化。タブレットは電池が10時間くらいもつので、あまり頻繁に充電をしなくて済むのがいいです。ケースごとジプロックに入れてザックの背中のパッド部分のポケットにいれて持って行ってます。ここだと、金属のフレームが守ってくれるので、変な応力もかからなくて安心です。


  僕の場合はざっとこんな感じです。あと、だいたいどこの小屋にも大きめの本棚があって、バイトや、お客さんが読み終わって置いていった本が結構な冊数置いてあります。普段自分では読まないタイプの本も多く、のんびり読書三昧もまた楽しいものです。あと、変わったところでは、凧もってきて、凧上げしてるやつもいたっけな~。

2011年6月13日月曜日

第10回 山小屋への携行品(生活用品編)


 

このコラムもなんとか今回で10回目。


■ 荷揚げ


   そうそう、南アルプスの鳳凰小屋にはヘリコプターの荷揚げのお手伝いだけに行くこともあります。ヘリは、お天気がいまいちだと、天候回復を待って、待機が続き、フライトがずるずると延びてしまって、なかなか荷物が届かないことが山ではよくあります。とくに昨年は雨ばかりで、一週間もフライトが伸びて、兵糧攻めにあいましたw 霧がかかって視界が悪いと飛べないので、どこの小屋でも、荷揚げの当日はピリピリ緊張ムード、無線でヘリポートと視界の情報をやりとりしなら、ガスが切れた瞬間に一気に物資を運びます。普通は、小屋の近くの開けた場所に荷物を落としてもらい、バイトも総出で小屋の中に運びます。また、すぐ次の便が飛んでくるので、大忙しです。

 そういえば、数年前に、どこかの山域で、荷物をかけるフックがちゃんと締まっていなくて、荷物を間違って落下させたとかで、荷物の脱着の方法が少し変わり、簡単な講習を受けたことがあったっけ。

 下の写真は高天ヶ原山荘でのヘリの荷揚げの様子。緊張して待っていると、パタパタパタっと、ヘリがやってきて、小屋前の小さなデッキに荷物を落していきます。たいてい一発では終わらないので、急いで荷物をほどき小屋の中へ運び込んでいたのですが、2年前から小屋裏に大きなスペースができ、そこに5発くらいは落としていけるので、あとでのんびり運べるため、だいぶ楽になりました。

■ 小屋への携行品について

 前回の続きです、小屋へ持っていく物についてすこし説明をしようと思います。小屋によっては、持ち物チェックリストみたいなのを送ってくるところもありますが、電話で「ヘッドランプと雨具だけは忘れないでくださいねーっ」と、言われるだけのところもあるので、簡単に説明しておきましょう。といっても、着替えや、洗面用品等は、普通の旅行とかわらないので、各自、必要な物を必要な量持っていけばいいと思います。たいていどこの小屋にも、お風呂に入れるのは週2回程度です(高天ヶ原は毎日ですがw)。洗濯はできても、やはり週2-3回くらいですので、アンダーウエア等の基本的な着替えとしては、3セットくらいは必要となります。上に着るものは、2セットでも、かわりばんこに選択すれば、なんとかやりくりできるかな。乾燥室が使えればいいのですが、そうでないと、お天気が悪いとなかなか洗濯物も乾いてくれないので、登山用品の速乾性のある物で揃えていくといいと思います。その他、必需品というと・・・


*ヘッドランプ:

 朝は暗いうちから働きだすので、これなしでは、仕事になりません、必需品です。最近は蓄電池に充電しておいて、厨房だけは朝から、電気照明がつくところも多いですが、倉庫に材料をとりにいったり、やはり手元が暗かったりするので、どうしても必要になります。安物はスイッチがすぐ壊れたりするので、それなりの物を買っておいたほうがいいかと思います。下界でも災害時にも使えますし、登山でも、必ず持っていくものなので、いいものを買っておきましょう。今だと、PETZLかBlackdiamondのものを使ってる人が多いかな。電池は意外とすぐなくなります。僕なんかは、寝る前に本を読んでいて、点けたままにして寝てしまって、朝に電池きれてたり(笑)。一週間に電池ワンセットくらいのつもりで準備していくと安心です。でも、最近は電池は単4のエネループを3セットと充電器を持って行っています。男性はひげそり用の充電池も必要ですね。


*充電器具:

 携帯は小屋での目覚まし時計がわりでもあるので、そのための充電器具も必要となります。私の場合は、目覚ましには、タブレット端末を使っていますので、その充電器と、カメラの電池用の充電器を持っていっています。それと上記のエネループ用充電器。あと、小屋はコンセントの数が少ないうえに、みんなが充電しますので、コンセントの口が三つ付いた延長コードも持って行っています。一人でコンセントを独占してしまっては申し訳ないですからね。他の人にも喜ばれますし。

*エプロン&頭巾:

 厨房に入るときはエプロンと頭巾が必須。保健所の人もチェックに来たりします。たいてい小屋に昔のがたくさん残っていて、すきなの使っていいよと言われますけど、デザイン的にこだわる人は、自分で用意していったほうがいいでしょう。ちなみに、太郎平グループの小屋は、タイアップしているマムートのエプロンで、おそろいです。

*サンダル:

   室内履き用のサンダルも必需品。厨房の床は濡れてますし、山小屋は足元から冷えてきますので、靴下やスリッパでの生活はできません。掃除の時など、畳の部屋では脱いで作業しますから、着脱のしやすいものが使いやすいです。私はアディダスのウオーターモカシンをサンダル代わりに持って行っています。サンダルよりも動きが軽快になるので、脱ぎやすいシューズタイプもお勧めです。つっかけのサンダルでは重い物とか運びにくいですしね。

*防寒具:

   前にも書いたけど、普段はフリースくらいで十分なのですが、たまに冷え込んだ時や、夜に外で宴会をしたり、流れ星を眺めたりする時のために、薄手のダウンもあると快適に過ごせます。ダウンや化繊のベストも、厨房仕事で、料理や洗い物をするときに袖を濡らすこともなく、使い勝手がよいです。夏といっても、標高の高いところは夜は氷点下ちかくまで気温が下がりますので、要注意です。足も冷えるので、ウールのしっかりした靴下がよいですよ。

   といった感じでしょうか。ほかにも気づいたことがあったら、順次書き加える予定です。あれもこれもと思っても、意外と山では使わないもので、一ヶ月なんかあっという間なので、荷物は割りきって、コンパクトにまとめるのが吉です。あ、そうそう衣類に関しては今年の私の持ち物も参考になさってください。)
今年の持ち物 衣類編


   今日の写真は、鳳凰小屋の炬燵で、みんなでまったりとしているところ。このときの荷揚げでは、待機が長かったせいもあって、毎晩飲み過ぎてしまって、荷物運びがきつかった(笑)これは、そろそろ若い人におまかせですね そうそう、この年(2011年)は下山してすぐの、6/6に池袋の豊島公会堂で、山岳映画の上映会があって、鳳凰小屋に関する記録映画もその一つとして上映されました。前年に一年かけて撮っていたらしく、興味深く見させていただきました。オーナーの細田さんもやってきて、舞台挨拶していました。なんでも、山岳映画サロンという、アマチュア映像作家の団体だそうで、毎年、上映会を開いているらしい。公会堂がほぼ一杯になる盛況ぶり、来年も行ってみようとおもう。しかし、製作者が「モデル」と呼んでいたいわゆる女性出演者がこぞってただのおばちゃまだったのにはちょっと苦笑い。まあ、会場を見渡せば、納得な年齢層だったのですけど。