2011年5月14日土曜日

第9回 山小屋への携行品(登山装備編)



今日の写真は、小屋開けのために、GWに鳳凰小屋に小屋入りした翌日の凍りついた窓ガラス。この朝はとても気温が低く、-6度しかありませんでした。御覧のように窓に綺麗な結晶が。鳳凰小屋とはもう長いお付き合いになるのですが、最近は仕事の都合で、小屋開けのお手伝いに行けなくて残念です。今までに5回小屋開けの手伝にいったかな。

  GWだけのバイトを募集している鳳凰小屋みたいなところは少なく、たいていは小屋番さんと、その年の長期のスタッフで小屋開けをします。鳳凰小屋は、一階の談話室に薪をくべる炬燵があって、オーナーの細田さんが、ゴミと一緒に燃やしている薪を常に補充しているので、いつもぽっかぽかの状態。なにせ他に暖房が一切ないので、この炬燵にみんなが暖まりに来ます。そして毎晩大宴会に・・・

 実は、この部屋、オーナーはじめ、スタッフの寝室も兼ねていたりするので、あまり連日盛り上がると、逆にスタッフは疲れがたまって来たりします(笑)でも、こういうスタッフもお客さんも一緒になって話ができる空間って、他の山小屋ではないので、鳳凰小屋の一番の特色になっています。山小屋のお客さんは年齢的にはだいたい60代の方が一番多いのですが、この団塊の世代が山にこれない年齢になってしまうと、だいぶお客さん減ってしまうのかな。

それでも一時期の山ガールブームで若い人もだいぶ増えてきているので、山小屋の客層も、あと数年すると、だいぶ変わるかもしれないですね。テント泊の登山者は、どこも年々増えていて、最近は小屋泊まりのお客と数が逆転することもシーズン中何回かあったりします。かくゆう私も個人での山行きは、テント泊が多いのですが・・・

 ■ 小屋入りの際の装備

  GWの鳳凰小屋のような雪の多い時期に入山する場合は、アイゼン、ピッケルは必携ですし、靴もそれなりの物じゃないといけませんが、夏の短期、中期のバイトなら通常の縦走登山用の装備で十分だと思います。

 *登山靴

  靴は、ゴアテックス・ブーティーの防水性のある一般的な登山靴なら、特に問題ないと思います。靴に関しては、一旦小屋入りしてしまえば、普段は外では長靴で作業&生活することになりますので、小屋でどうこうより、バイトの後、縦走して歩いたりするなら、そのコースに合わせた靴を選べばいいかと思います。最近はトレールランニング用の靴も進化していますから、無理に重い、ごっつい登山靴を選ばなくてもいいかと思います。僕はここ数年はトレールランニング用のミドルカットの靴を使っています。ただソールがちょっと柔らかいぶん、あまり重いザックを背負うと足元がちょっと安定しにくいです。なので、荷物は極力軽くするようにしています。最近は登山客の縦走のスタイルも変わってきて、テント装備でも、足元はトレランシューズっていう若い人も多くなりました。個人的には装備が15キロ前後までなら、トレランシューズでOKかと思っています。

で、先程話した、作業用の長靴のことなのですが、履きなれるとこれが非常にに歩きやすく、例えば、太郎平小屋から折立へ下山するのにも、長靴とごつい登山靴を比べると、長靴のほうがタイムを短縮できたりします(あくまで、履き慣れてていて、足の裏が強くなっていればの話ですが・・・)。底が柔らかいので滑りやすい岩や木の根っ子なんかにもがっちりグリップしますし、山での生活には欠かせないアイテムです。この便利な長靴、たいていは、小屋に古いのがいくつかあって、これを使わせてもらうのですが、サイズが限られるので、荷物に余裕があれば、マイ長靴を持っていくというのもありだと思います。日本野鳥の会のオリジナル長靴なんかは、小さくおりたたみもできて、デザインもおしゃれでいいですよ。あ、それと長靴はゴム素材なので、多少サイズが合わなくてもはけてしまうのですが、これがかえって危険で、サイズの小さいものを無理して履いていると、足の爪が壊死してしまいます。僕もこれで二回ほど、足の親指の爪をはがしていますので、サイズには要注意です。

 *雨具

  これも、ゴアテックスの雨具が定番です。普段つかっている物があればそれで結構なのですが、男性スタッフは雨の中での登山道整備等、外仕事がありますので、高級なゴアテックスハードシェルだけしかなかったりすると、作業でボロボロになる可能性もあるので、そこらへんを考慮して、別に安い物や、使い古しの雨具などを持っていくといいと思います。モンベルの一番安いやつとかで十分です。作業用ということなら、ワークマンとかの安い物でもいいかと。小屋の人は、たいてい、古くなってボロボロになった雨具を作業用にしています。あと、ゴアテックスのスパッツもあったほうがいいでしょう。個人的には、雨具のフードをかぶるのが好きではない(音がきこえないし、なんとなく窮屈)ので、ゴアテックスの帽子も必ず持っていきます。これは銘柄的にはアウトドア・リサーチの物がつばが広くて、使いやすくてお勧めです。雨の日に下山・・・なんってこともあるし、小屋回りでも雨の日に使えるので、登山用の軽い雨傘があっても便利です。下山日が雨だったりすると街中をカッパ着て歩くことになりますしね。

 *ザック

荷物の量は人によってそれぞれですが、だいたいみんな、60-70リットル位のザックで来ています。はっきりいって、山での1ー2ヶ月なんて、あっという間なので、あまり余計な物は持っていかないのが一番です。なので、50リットルくらいのザックで済ませたいところなのですが、どうしても、こだわりたい物(カメラやタブレットとか)で、ついつい大荷物になってしまいます。私は最近は、グレゴリーの70リットルのザックをつかっていますが、結構すかすか状態で使ってます。だんだん、小屋生活に、どうしても必要な物がわかってくるので、年々、荷物はコンパクトになってきています。昔は75リットルのザックがぱんぱんな状態でした。もし、新調するなら、ザックと登山靴だけは専門メーカーの物を買うことをお勧めします。専門メーカーというのは、ザックなら、ザックだけを、デザイン&製造しているところ(グレゴリーとか、オスプレーなど・・・)です。一番体にダイレクトに接して、負荷のかかる道具ですから、しっかりしたものを選びましょう。個人的にはグレゴリーのザックが一番背負いやすいのですが。こればっかりは体型にもよるので、実際にお店にいって背負ってみないとわかりませんね。

 ■ちょっと裏技

 初めての小屋では難しいかもしれませんが、カメラなんかも一眼レフ&交換レンズ一式となると、それだけでかなりの重さになります。他にも、人によっては、嗜好品のタバコとかお酒なんかも、かさばりますね。この手の物は、小屋によっては、ヘリの荷揚げの時に一緒に上げてくれることがあります。小屋入りの前に、事務所にダンボールで送っておき、ヘリコプターで荷揚げする際に、一緒にあげてもらうという方法です。何度もバイトに来ている常連さんなんかは、わざわざ担いで上がらないで、こうしている人が多いです。小屋というか、オーナーさんによって、段ボール一個だけならOKとか、お酒はダメとか、事情が違うので、事前に問い合わせてみるといいです。といっても、小屋入りから、最初のヘリの荷揚げまでの期間に使いたい物はやはり担いでいくことになります。そうそう、北アルプスの小屋では、系列にもよりますが、たとえば、太郎グループだと、夕食時に、ビールでも、酎ハイでも、炭酸飲料でも、お菓子でもなにか一品、好きな物を選べます。


あと、従業員用のお菓子をダンボールでまとめてあげている小屋もありますし、ここらへんも気になるなら事前に問い合わせてみるといいでしょう。 

2011年4月24日日曜日

行ってきます

 さてさて、火曜日から、南アルプスの鳳凰小屋の小屋開けに行ってきます。今年で4回目、足掛け五年になります。GWだけなんで、期間は短いのですが、それでも、今年は5/8までなので、二週間近くになります。帰ってきたら、ご報告いたします。

五月からは、山小屋で働く際に持っていくもの等を整理してみましょう。それでは、行ってきます。

2011年4月11日月曜日

第8回 山小屋の仕事(3)(受付編)


■ 行く山小屋は決まりましたか?

 山小屋のバイトの募集は、早いところは年明けくらいから始まります。たいてい小屋開けはGWですから、それまでには、長期のアルバイトは決めておかないと小屋としても困ってしまいます。中期のバイトも、6月下旬には小屋入りしてもらって、最繁期までに仕事に慣れてもらわないといけません。短期のバイトは結構直前、場合によってはシーズン中も募集していることもあります。通常は、まず、電話でコンタクトをすると、登山や山小屋の仕事の経験の有無、働きたい期間等を聞かれ、履歴書を送付。採用だと、その旨連絡が入り、その後、契約書が送られてくるので、サイン&捺印して、返送。これで、正式に採用となります。入山までは、持っていく物の準備するのと、前にも書いたけれど、今まで登山を全くしたことないっていう人は、近場の山でちょっと足慣らししておいたほうがいいかもしれません。7月から山小屋に行くなら、5-6月と月に1-2回くらいは歩いておいたほうがいいかな、靴が合っているかのチェックもできるし。だいたい、アルプスの稜線ちかくの小屋だと、登山口から、1000メートルくらいの標高を登ることになるので、東京近辺だったら、奥多摩か、丹沢あたりの日帰り登山で鍛えとけば問題ありません。

■ 受付の仕事とは?

 登山道整備の仕事、厨房の仕事と書いてきたので、もう一つ、受付業務についても簡単に説明しておきます。といっても、初めて行く小屋で受付の仕事をすることはまずないと思いますが、小さい小屋だと、人手が足りないときに、ちょこちょこと、しなければいけなくなる時もあるかとおもいます。でも、山小屋の受付っていうのは結構、デリケートな面もあるので、ある程度慣れた人でないと、何かとトラブルの元になることがあります。

 業務的には、来たお客さんに、宿泊カードを記入してもらい、食事の内容や翌日の弁当の有無なんか聞いて、宿泊料をいただきます。それから、寝る場所を決めてあげて、そこまで案内。その際に、トイレや乾燥室等の諸施設の場所や利用の仕方なんかを説明します。食事や弁当の数は常に変化しますので、間違いがないように随時厨房に連絡を入れます。最後に、すべてを集計し、帳簿に記入します。これを、併設された売店をさばきながらするので、最繁期はトイレにもいけないくらい忙しくなります。お客も様々で、難しい注文をする人もいますし、ツアーの添乗員さんとかだと、いわばお得意さんになるので、寝る場所などは、特別に配慮しないといけません。それでも、お客さんの少ない時は適当に世間話もできますし、いいのですが、最盛期に布団2枚に3人寝てください・・とか、さらには、布団1枚に2人でお願いしますとかいう、厳しい混雑状況になってくると、大きな小屋では、受付前に、大行列ができますし、結構なプレッシャーが、かかります(笑)

 こういう状況だと、お客さんもなかなか小屋に入れず、イライラしてきますし、従業員の側も応対にいっぱいいっぱいで、ちょっとしたことで、言葉や気遣いが足りずに、お客さんを怒らせてしまうこともあります。よくあるのは、予約を大幅に上まるお客さんが来た時。最初、1人に布団1枚で案内していたのが、場所が足りなくなり、途中から2枚に3人で寝てもらうように案内を変えたりすると 「あっちの部屋では1人に1枚に布団があるのに、待遇が違うじゃないか!」とか、「3人で2つの毛布って、真ん中の人はどうやって布団かけるんだよ!」とか、ごもっともなクレームをつけられてしまいます(笑)。でも、高天ヶ原くらい山奥になるとw さすがに皆さんわかっている人しかこないので、何があっても、皆さんニコニコしています。いいお客様ばかりで、大変助かっていますw

 なので、予約数と曜日、時期、お天気等から、今日はたくさん来そうだなと思ったら、最初から、タイトに押し込んでしまうとか、一番多い男性の単独のお客さんは、大部屋にぎっしり詰め込んでしまうとか、部屋割りのコツはいくつかあるのですけど、これも、ある程度の慣れが必要となります。あと、登山道の状況や、次の目的地までの所用時間等はよく聞かれるので、周辺をある程度歩いたことのある人でないと、的確にアドバイスできないばかりか、危険でもあります。特に、沢添いのルートはお天気に左右されるので、注意が必要です。ここら辺は、黒部源流部では、小屋間の無線で、常時連絡を取り合って、リアルタイムに登山客に情報を提供できるシステムが出来上がっています。

 とはいえ、厨房の仕事と違って、実際に様々なお客さんと接し、話もできますので、私のように、話好きなタイプの人は、楽しく働けるポジションだと思います。まあ、たまに嫌な目にもあうこともあるけれど、その何十倍も楽しいこと、嬉しいことがありますから。私の場合は、黒部源流域で、あちこちの小屋で働いているので、お客さんが覚えていてくれて、「あれ?前に、あそこの小屋にいましたよね?」と、聞かれることも結構あります。意外とみなさん、覚えていてくれんですよね。こちらは、大勢のお客さんの相手をするので、余程、特徴のあるお客さんじゃないと、顔まで記憶に残らないのですが、普通のお客さんは、山小屋に泊まる、しかも北アルプスの最深部にっていうのは、ある意味特別なことなので、こちらのことをじっくり観察しています(笑) なので、身振り、言動には常に気をつかわないといけません。

 そういえば、太郎平小屋で、キャンプ場の管理をしていたときに、登山口に駐車した車にサイフを忘れてきてしまった若いご夫婦がいて、せっかく登ってきたのに受け付け出来ないとも言えないし・・・、結局、下山してからの代金を振込んでもらうことにして、滞在してもらったことがありました。後日、代金の振り込みはもちろんのこと、箱詰めのクッキーまでお礼にということで送っていただいたりしました。でも、私が下山しているときに届いたので、山小屋に戻った時には、全て食べられてしまっていました(笑)

■ 今日の写真


 今日の写真は、高天ヶ原のトンボ。なんでも、ここらへんは、珍しいトンボが生息しているらしく、マニアにはたまらない所らしいです。虫好きの人って、山にも結構いるんですよね。南アルプスの鳳凰小屋のご主人、細田さんも、大の虫マニア。なんでも、自分で発見した新種の昆虫がいくつもあって、ホソダなんとかっていう学名までついているらしい。後世に名を残したいなら、虫屋になるのが一番の早道かもしれません(笑)

2011年3月22日火曜日

第7回  山小屋の仕事(2)(厨房編)


■ 厨房の仕事ってたいへん?

 山小屋での仕事で、一番手間ひまかかるのは、やはり、食事の準備になるでしょうか。なにせ、数十から、多い時は、小屋の規模によっては数百人分の食事を用意しないといけないのですから、食器、プレートを並べて盛り付けするだけでも大変なことです。たとえば高天ヶ原山荘のような小さな小屋だと、食堂の定員は24名、ここで、100人が食事をとるとなると、最低、5回は入れ替えないといけません。伝えた食事の時間通りにこない人やら、暗くなってから小屋に到着する人、温泉に行ったきりもどってこない人w・・・等、予定通りにはいかないですから、実際は5回+αの入れ替えとなります。食器の数は50セットしかないので、下げたものを再度洗って、さらに盛り付けて、また配膳して・・っと、これの繰り返しになります。さらに、お弁当も作らなくては・・っと、最盛期の厨房は、実に大忙しです。気がつくと、もう、消灯時間・・・。そして、暗い中、厨房で夕食なんてことも・・・。そんなことも、小さな小屋では、ワンシーズンに何回かあります。逆に、大きな小屋だと、数百人分の食事を用意しないといけないのですけど、その分バイトの数も多いですし、効率よく分業体制ができてますので、そこまで遅くなることはないのです。どちらがいいかは、一概にはいえないのですけどね。

 食事の内容は、各小屋の厨房の担当者が考えて、毎年ちょっとずつ手を加えていくので、担当者が変わると内容もがらっと変わったりするのですが、その小屋の長年の定番メニューってものはあります。たとえば、北アルプスの双六小屋や黒部五郎は昔から夕食のメインは天ぷらで有名ですし、南アルプスの鳳凰小屋のおかわり自由のカレーライスも、ずっと定番です。ここ6年ほど、通っている、高天原山荘も、昔から夕食は、天ぷらが名物、だったのですが・・・5年前に小屋番さんがかわり、今はチーズハムカツがメイン。私は、いつも高天では揚げ物担当です。天ぷらや揚げ物は目が離せないので、お客さんの多いときは、ず~~と、天ぷら鍋の前に張り付いています(笑)、一昨年は厨房の建て替えで、臨時の小さな厨房での作業だったので、大変でした。その厨房も、昨年ピッカピカに新しく、大きくなって、最高の作業環境になっています。双六グループの小屋はどこも厨房が広くて作業しやすかったなあ。

 小屋の厨房での仕事は、たいてい、料理品目ごとの担当制になることが多いです。たとえば、ご飯とみそ汁は長期バイトのK君、天ぷらはJ君専任、煮物は女性のNさん、といったように、各自の仕事を割り振られるか、得手不得手で自然と分業になりますから、それをこなしつつ、大変な人がいれば、手伝ってあげつつ、手が空いた人から、盛り付け、配膳、お弁当つくり、洗い場にまわるといった感じです。メニューは普通、2種類考えてあり、一日おきに変える小屋もありますし、連泊のお客さんがいる時だけ、別メニューにする場合もあります。さすがに山小屋に三連泊する人はめったにいないので、2パターン用意すれば、たいていはそれでなんとかなるのです。たとえば、ことしの私は高天ヶ原山荘の厨房で何をつくっていたかというと、キャベツの千切り/チーズハムカツレツ/菜の花のおひたし/アンチョビのパスタです。それと連泊のお客様にだす天ぷらも揚げていました。でも、料理は楽しいので、苦にはならないかな。


 
■ アルバイトは何を食べるの?


 従食っていう言葉をきいたことありますか? 従業員の食事のことを、山小屋では、従食とよびます。いわゆる、まかないというやつです。お客さんに出す料理は、遅くなってから小屋に到着する登山客もいるので、少し多めに用意するので、普通は余りがでますので、基本的にはこれをいただくことになります。でも、さすがに、毎日同じものでは飽きてしまいます・・・なので、日替わりで担当を決めたりして交代で、何か1~2品付け加えたり、常連のお客様や遊びにきた元アルバイトの方々がおみやげに持ってきてくれたものをいただいたりという感じです。たとえば、登山口に近い、太郎平小屋とかですと、富山から登って来る人が多いですから、豊富な海の幸(昆布〆とかイカ墨とか・・)を差し入れに持ってきてくださる方々がたくさん登ってきます。まだ、お客さんの少ない時期などは、食堂でお客さんと、同じ時間に食事になったりしますが、従業員の食事のほうが、ずっと豪華だったりすることもたまにあります(笑)。まあ、お客さんの前で、お客さんより豪華なものを食べてはダメ!っという小屋番さんもいるし、たしかにちょっと気まずいのですが。ここ数年、高天ヶ原山荘は工事続きで、常に職人さんが、多い時は10人近くいたので、そちらの食事も用意しなくてはいけないので、ちょっと大変でした。その工事も一昨年に完了し、綺麗な厨房と、バイオトイレのおかげで大変快適な小屋に生まれ変わりました。
 
 そんなわけで、必ず従食用に、一品何か作ってくれない?っていわれると思いますから、時間がかからず、どの小屋にもある食材だけで、ささっと料理できるものをを2ー3種類練習しておくことを、お薦めします。食材は、小屋によってあるものがまちまちなので難しいのですが、大抵のものはあります。ただ、発電機を使わない小屋ですと、冷蔵庫がないですから、肉はハムやベーコンくらいしかなかったりしますので、限られた食材で、素早く、美味しく工夫して料理できる人が喜ばれます。あ、あと、お菓子(ケーキとかクッキーとか)やパンとか作れたりすると、ポイント高いです~。どの小屋にもケーキミックスくらいは置いてあるはず。ちなみに、下の写真は高天が原山荘で前日の夕食で余ったチーズハムカツを利用して作ったカツ丼です。こんなんだと、ネギと出汁つゆ、とき卵で、10分でできちゃいます。簡単でおいしいんです。

■ 山小屋のお風呂について


 最後に山小屋のお風呂について、話しておきましょう。高天ヶ原山荘には、小屋から歩いて15分くらいのところに、天然温泉の露天風呂があって、アルバイトも毎日入れますが、これはありえないくらい恵まれた例です。普通、どこの山小屋にも従業員用のお風呂はありますが、たいていは、厨房の裏手とか、または小屋の裏に別棟になっていたりします。ユニットバスをヘリコプターで上げて使っていたり、シャワーだけだったり、薬師沢小屋などは、以前は、五右衛門風呂を薪で沸かせていました。そこらへんは、小屋ごとに様々です。しかし、水を天水(雨水)だけで、やりくりしている稜線の小屋などは、その貴重な天水を沸かして、オケに入れて、タオルで、体を拭くだけっていう所もあるので、そこらへんが気になる人は事前にチェックしておいたほうがいいかもしれません。ちなみに私は、お風呂なしの小屋で働いたことはないのですが・・・結構きついかもw 普通は、一週間に2-3回程度、お風呂の日があって、順番に手のあいた人から入っていきます。高山は基本的に乾燥しているし、涼しいので、汗もさほどかかないのですが、さすがに3日もすると頭が痒くて我慢できなくなってきます(笑)。石鹸やシャンプーは小屋にありますので、持って行かなくても大丈夫ですよ。

 山小屋での生活は、他人との共同生活ですし、常にお客さんの視線もありますから、特に神経質な人でなくとも、気が休まらない部分もあるかもしれません。風呂は、そんな中一人で、ほっと一息つける貴重な時間でもあります。下の写真は高天ヶ原の露天風呂。源泉と、川の水を混ぜてホースでひっぱってきてるんですけど、その混ぜかげんで温泉の温度を調整するのも大切な仕事のひとつなんです。なにせ皆さん、このお風呂が目当てでやってくるのですから。

2011年3月2日水曜日

第6回 閑話休題(今後について想うこと)

 こんにちは!はる@です。今回は、具体的な仕事の内容からは一旦はなれて、諸々の話をしましょう。そういえば、以前、mixiで、友録申請が来ていて、誰かと思ったら、前に太郎平小屋の受付で一緒に働いていた、当時はまだ慶応大学のSFCの学生さんだった、タイラ君からのものでした。なんでも、その翌年は五色ケ原の山小屋で働いていたそうで、無事、就職も決まったとの報告。リゾート関係の有名な会社への就職のようなので、面接の時にも、小屋での経験は役立ったんじゃないかな。彼も、山小屋のアルバイトがきっかけで、山好きになった一人です。こうして、色々な年代や土地の人と繋がりができていくのも、山小屋アルバイトの面白いところかもしれません。まあ、それだけ、山は魅力があるってことなんでしょうね。
■今後の個人的山小屋生活
 現在(2011年3月)、私もこの夏はどこの小屋にお世話になろうかと思案中なのですが。これまで、あちこちの山小屋で働いてきて、色々な小屋を見られて楽しかったし、比べて見ることによって、初めて、それぞれの小屋の良さがわかることも多いのですが、しかし、決していつまでも、あちこちふらふらとしていていいとも言えず、そろそろ安住の地を探す時期かなーとも思っています。どこに落ち着くにしても、オーナーや小屋番さんと気が合うというのが大前提でしょうが、人、山、小屋の居心地、仕事環境、写真の被写体として魅力、沢登や釣りなどの休憩時間のアクティビティと、選択のための要素はたくさんありますが、全てを兼ね備えた所っていうのは、なかなかありません。
*現在(2015年1月)、4年前には↑のように書いてますがw ここのところすっかり高天ヶ原山荘にお世話になっております。もう他にいくこともなさそう・・・
 もともと、登山は30代半ばにもなってから友人に誘われて始めたのですが、実は、一度やめかけた時期もありました。一通り有名どころの山に登ってしまって、ちょっと飽きてしまった頃です。その頃、出会ったのが山小屋での生活と趣味としての風景写真でした。ちょうどデジタル一眼レフが一般の人にも手が届く値段になってきた頃ですかね。なんというか、登山者として山を外から眺めているのと、山小屋の従業員としてそこで生活しながら、内側から眺めているのは結構大きな違いがあり、わくわくしながら、この11年間を過ごしてきましたが、この先、さらに充実させるためには、どうすればいいのか、そして、ここからの経験から自分は何を表現出来るんだろうと、思案中でもあります。山登りの形態としては、沢登りがメインになっていくと思いますが、やはりこれも、谷という、内部から山を見ることになり、登山道を歩くだけでは見えてこない、新たな発見があると思うからです。
 *↑のようなこと書いてますがw 最近は建築よりもランドスケープデザインの仕事をメインにするようになりました。これも、自然のなかで暮らし、風景ばかり撮っていたからなのかもしれません。
 上の写真は、春の鳳凰小屋で、倉庫整理をしていてでてきたリカールの一本。何十本もあるのだけれど、様々な山の幸を焼酎に浸けこんであるんです。これは、1984年とあるから、もう35年物。オーナーもあまりお酒を飲まなくなってしまったので、僕らがせっせとのまないと(笑)。どこかにカウンターでもしつらえて、山のお酒のショットバーでもやろうかと冗談交じりに話してたけど、やったらほんとうに売れそうだ。こんな得体のしれない酒瓶がずらーっと並んだバーが森の中にあったら、みなさんなら、一杯いくらくらいなら、飲んでみたいと思いますか?しかし、シャクナゲを漬けたお酒って、どんな味なんだろうか。

2011年2月16日水曜日

第5回 山小屋の仕事(1)(山仕事編)

■山小屋の仕事

さて、今回の本題のなのですが、では、具体的に山小屋でどういう仕事をするのか?ということなのですが、 大きく分けると、
1、雪かきや登山道整備等の力仕事
2、厨房での料理、配膳、片付け
3、受付・売店業務
4、小屋の維持管理(清掃、水源メンテナンス等)
5、荷揚げ(ヘリコプターでの荷揚げや歩荷(ボッカ))   という感じに分類にできるでしょうか。4-5は別の機会に説明するとして、3回に分けて、1-3の業務について、書いていきましょう。今回は、1の山での力仕事について書いてみようと思います。

■ 山小屋で最初にやるべきこと

 GWの鳳凰小屋はもとより、中期のバイトが小屋入りする6月末の北アルプスも、標高2000メートル以上は、南斜面以外はまだまだ雪が残っています。そんな小屋に到着して、まずしなくてはいけないこと・・・って、なんだと思いますか? 生きていくのに一番必要なもの・・・そう、飲料水の確保です。水は近くの沢から引いて来るのですが、その沢は・・・そうまだ雪の中。毎年、水を取る場所は決まっているので、お目当ての場所にいき、位置を確認してから、ひたすら雪に縦穴を掘る・・・・。その年の雪の量にもよりますが、3〜5メートルは掘ります。とにかく雪の下の沢の水が見えるようになるまで。そこから、ホースを水平に小屋まで引いていかないと(実際にはゆるい傾斜をつけて)いけないので、沢の下流に向けて、水平に、掘る、掘る、掘る・・・、これで、ホースの通り道が完成し、小屋までホースを伸ばしていくのですが途中も山あり谷あり。ホースに空気が入ってしまったりで、なかなか容易ではありません。

 双六小屋なんかは、裏山にいい湧水があり、あまり苦労せずに飲料水を得られるんですけど、だいたいどの小屋でも、飲料水の確保がまずは、小屋開けの一大イベントです。で、これは、男衆の仕事であります。鳳凰小屋では、小屋の前の広場の洗い場まで、このホースを引っ張っていき、水を出しっぱなしにします、一帯に水の音が響きわたり、やっと、「ああ、今年もシーズン始まったか・・・」っと、初めて、ほっと一息つけるのです。ただこれは、長期や中期のバイトの人の仕事なので、短期のひとが来た時にはすでに、準備はととのっています。でも、水源ってどういうところなのかな?っと、場所を聞いて見にいってみるのもいい経験になりますよ。小屋の生命線なので、決して水源は汚さないように!

■ 登山道整備って?

  とりあえず、水の確保ができると、 女性が小屋の中を整理したりしている間に、男衆は、登山道の整備にでかけます。海の日近くなって、お客さんがたくさんくるようになると、もう外仕事にでる時間はありませんから、この時期に、昨年に伸びた草や木の枝を刈り、木道や梯子などの故障箇所を直したり、川に橋をかけたりして、登山道をすこしでも歩きやすく、安全な状態に整備します。あと大切なのは、登山道のマーキング。こっちが登山道ですよーっと、印をつける仕事です。これはペンキで岩に○をつけたり、石を置いたり、木の枝に赤いテープを巻いたり、その場所によって、どの方向から来ても、歩く方向がわかるように、最適な目印を付けていきます。   外仕事は山小屋の仕事の中でも、一番肉体的にきついですし、チェーンソウや草刈機等も使うので、危険でもあるのですが、僕は実は一番好きな仕事です。背負子に大きな木槌(かけや)やら、鎌やら、必要な道具をくくりつけて、お弁当をもって、作業をしながら、まだ誰も歩いていない登山道を整備して回るのです。お昼にほおばるおにぎりの美味しいことといったら・・・。こういう作業は、小屋が忙しくなる前に済ませてしまわないといけないので、7月半ばくらいまでの仕事となります。で、こうした作業の帰り道に、前に紹介した、あまなや行者ニンニク等の山菜を取りながら、だいたい3時前頃までには小屋に戻ります。戻ったらすぐに夕食の準備です。
    そうそう、今までで、登山道整備で作った一番おおきなものといえば、黒部湖に流れ込む菊沢という沢に作った片側90段くらいある梯子でしょうか。梯子といっても、この長さなので、途中に踊り場も二箇所設たりして、かなり本格的な工作物です。谷なので、当然反対岸にも同じくらいの物を作るわけで、二人で作業して、10日以上かかりました。この年は、せっかくかけた橋を全て鉄砲水で流されて作り直したりと、今思うと、ありえないくらいハードな一夏でした。山小屋生活1年目のことでしたので、わけもわからず働いていいたんですねw


 今回の写真は、子どもの写真をアップ。2010年に高天原山荘にいた時に小屋に遊びにきた、水晶小屋の小屋番夫妻のお子様です。 登山というと、歩いてるのは中高年が多いので、子どもがよちよち歩いていると凄い違和感があります。でも、次はこの子が次代の水晶小屋を継ぐのかな? このあと、背負子に乗せられ、水晶小屋に戻っていきました。

#追伸

そうそう、この伊藤正一さんの長男夫妻は、現在は、三俣山荘の小屋番をしています。たまには他の小屋に遊びにいかないとな。黒部五郎小舎もご無沙汰してしまって・・・今年は、あちこち挨拶回りにいこうかな。

2011年2月1日火曜日

第4回 中期バイトの勧め



■ 山の診療所

 ところで、みなさん、山にも病院というか、診療所があるって、知っていますでしょうか? 昭文社の山地図なんかにも、診療所のある山小屋には、その旨記載されてますけど、泊まっているお客さんでも、知らない方、結構多いんです。やっている期間はたいていは、以前の海の日(7月20日)頃からお盆過ぎまでと、最繁期だけですが。たとえば、黒部源流部だと、太郎平小屋には、日本医大の診療所が、双六小屋には、富山大学医学部、三俣山荘は、岡山大学と香川大学の医学部が共同で診療所を開設しています。縦走の起点となる、大きめの小屋に設置されていることが多いようです。

 どこの診療所も、各医科大学の山岳部OBを中心に学生や看護師の方々が交代で山に登って来てくれるのですが、最近は、どこの大学でも山岳部は人が集まらず・・・運営には苦労されているようです。実際、診療所に誰もいない期間も結構あって、ちょっと問題になっています。あくまでボランティアでお願いしていることなので、来てくれる人がいなければどうしようもないのですが・・・   利用される方は、軽い怪我(捻挫のテーピングや虫刺され等)で利用される場合が多いのですが、高山病で熱が下がらず、診療所に泊まっていく方もいます(重症の場合はヘリコプターを呼んで、即入院ですが、医師がいないと、ここらへんの判断が難しいのですよね)。山小屋の従業員が、この診療所にお世話になることも多いのですが、こういった診療所のある大きな小屋でないかぎりは、山小屋には薬関係といっても、薬箱一個あるだけだったりするので、常備薬がある場合はもちろん、抗生物質と風邪薬くらいはもっていったほうが無難です。手を包丁で切ったりすると、なにせ、毎日の洗物の量が半端じゃないので、なかなか傷口がふさがらないで化膿してしまったり、朝晩の寒さで、うっかり風邪をひいてしまうこともあるので。





■山小屋での仕事



  さて、本題の山小屋バイトの話に戻りましょう。実際にバイトって、どんな仕事をしるんでしょうか? 小屋にもよるのですが、 たとえば、ここ6年通っている高天ヶ原山荘での、一日のスケジュールを例としてあげると、



3:30 起床

3:40 〜4:20 朝食準備

4:20〜4:50 配膳

5:00〜 朝食

5:30〜 食器下げ



5:30〜 6:00 食器洗い

6:15〜6:40 スタッフ食事準備

6:50 スタッフ朝食

7:15~8:00  休憩 8:00〜8:15 ミーティング

8:15〜10:00 スタッフ全員にて、清掃

10:00〜10:30 休憩(お茶)

11:00〜13:00 食堂・売店の切り盛り

13:00〜15:00 休憩

15:00〜16:30 夕食準備

16:30〜16:50  配膳

17:00〜18:15 夕食(2回分、盛り付け、配膳の繰り返し)

18:15〜19:00 食器洗い

19:00〜19:30 スタッフ夕食

19:45解散

20:00 消灯、就寝


 7月下旬〜お盆過ぎまでの最繁期の一日のスケジュールは、ざっと、こんな感じです。休憩は日によって交代で、午後に1~2時間です。休憩時間は散歩に行ったり、本を読んだり、人それぞれですけど、たいていは、忙しい時は、早朝から働きっぱなしなので、昼寝してしまうことが多いですかね、なにせ朝早いので。じゃないと連日の激務で体がもちません。でも、ずっとこのスケジュールというわけではなくて、中期以上の期間のバイトであれば、ローテーションを組んで、何日かごとに少し長めの休憩をもらえたり、朝も交代で遅く起きてきたりできる仕組みになっています。でも、前回お話したように、小さい小屋で、ぎりぎりの人数でやっているところだと、あまり休めないところもあるかも。とはいっても登山客の少ない時期は、一日遊んでるようなものなのですがw

■ 中期バイトの勧め
  いかがでしょう? 自由になる時間って、思ったより少なくないですか? なので、山でゆっくり過ごしたいっていう方は、時間が取れれば、中期以上でバイトに入ったほうがいいと思います。短期の1ヶ月というのは、いちばん忙しいときに、だーーっと働いて、はい終わりっていう感じですので(それでも、いい経験にはなりますが)、せっかく山でのんびり過ごせる良い機会なのに、勿体無いと思うんですよね。山小屋は、ちょっと登山シーズンはずれれば、お客さんも一桁なんてことも。昼間はカメラを持ってのんびりお散歩か、川でイワナ釣りでもっていうのが、バイトにとっては一番幸せな時間なのです。  


■山小屋の電気


 今日の写真は、温泉とランプの宿で有名な、高天原山荘の灯油のランプ。ランプの宿といっても、さすがに、夜は作業がしずらいので、太陽電池で充電した無線用の蓄電池を利用して、厨房だけは一個の裸電球で照明できるようにしてあったのですが、数年前に、常連のお爺さん(定年前は中学の理科の先生だった方)が、LED電球を厨房3つ付けてくれて、さらに、明るく作業しやすくなりました。   高天ヶ原は一切発電機をまわさない特殊な小屋ですが、普通はどこの小屋も灯油で動かす大型の発電機を持っていて、朝、食事の準備のために、起床後すぐ発電機をまわし、お客さんが出発していなくなるくらいまでか、掃除に掃除機を使う場合は掃除が終わるまでコンセントが使えます。発電機は、昼間は基本的に止めておいて、夕方3時頃に再度つけて、消灯の九時までは、回しっぱなしといった感じでしょうか。なので、携帯などを充電したい場合は、基本、発電機が動いている間しかできませんので、ご注意あれ。でも、たいていの小屋は、無線機器等のバックアップ用として、バッテリーに充電もしているので、どうしてもというときは、小屋番さんにこっそり聞いてみてください。以下の記事も参考に・・・




山小屋と電子機器